「内緒」

誕生日、何が欲しい?
この質問に対してこの回答はたいへんおかしいと思う。あまりに奇天烈すぎる返事に、わたしがはあ?って顔をするとブン太はそれを見兼ねて笑った。なんでこのタイミングで笑うの。不思議だったけれど、ブン太の女子顔負けなかわいらしい微笑みに思わず心臓がどきんと跳ねた。わたしもこんなかわいい女子に生まれたかったものである。………いや訂正、ブン太は女子じゃなくて男子だった。

「えっじゃあ…誕生日プレゼント要らないの?」
「要るに決まってんだろい」
「ええっ」
「プレゼントは欲しい」
「うん」
「けど、何が欲しいかはまだ教えたくないんだよな。だから内緒ってことでシクヨロ」
「…」

またわたしがはあ?って顔をしたら、ブン太はさっきと同じようにかわいらしい笑顔を浮かべてわたしを見た。どきん。いちいち心臓うるさいな。もう長年ブン太といっしょに居るんだからいい加減この笑顔にも慣れてほしいものだ。もちろん長年いっしょに居ると一口に言っても、わたしとブン太の場合は恋人じゃなく幼なじみという意味になるんだけどね。
誕生日プレゼントどうしよう…。せっかくあげるならブン太のいちばん欲しいものをあげようと思ってたのに。
わたしがあからさまに困った顔で教室の床を見つめていると、チャイムが鳴った。うるさいくらい響いてはホームルームが始まることを告げている。もう今日の授業は終わりだ。わたしもブン太も、お互いどちらとも沈黙を破ることなく他のクラスメイトに倣って自分の席に着いた。
もう…知らない。ブン太のばーか。







このまま目を閉じれば日付は変わって明日になる。あいつの誕生日。結局あれからいろいろ考えてみたけれど、ブン太がとびきり喜んでくれるような素敵なプレゼントなんてぜんぜん考え付かない。お菓子でも作ろうかな、なんて思ったりもしたけどやめた。だってどうせ大したものは作れないし、わたしがわざわざ作らなくてもブン太が自分で作った方がはるかにおいしいお菓子が出来るはずだもん。それに何より、お菓子作りなんてゆう柄じゃない。
まあ、いっか。……今日あんなこと言われたし。きっとブン太はわたしからのプレゼントなんて迷惑だって遠回しに伝えたかったのかもしれない。毎年この日が来る度にいろんなものをあげてきたけど、ほんとうはそれも全部迷惑だったなのかな。有り難迷惑ってやつか。うわあ…なんか嫌だなそれ。
頭の中でマイナス的思考を巡らせてはため息がこぼれた。小っちゃい時から決まりごとみたいに、お互いの誕生日にいろんな物を贈り続けてきた。ぬいぐるみ、香り付きの消しゴム、テニスボール、お菓子の詰め合わせ。考えたらわたし達は子供とは言えもう中学3年生なのである。いつまでもプレゼントなんて言ってはしゃいでいるのは他人からしてみれば馬鹿にしか見えないのかもしれない。……ううん、他人だけじゃない。ブン太にとっても然りだ。

(だけど…、)

やっぱりあげたかったなあ。誕生日プレゼント。
布団に潜ってもまだ考えていたら、なんだか意味もないのに目頭が熱くなった。同時にじわじわと涙が目許を湿らせてゆく。なんだろう、なんともないのに心が痛い。
たかだか誕生日くらいで何泣いてんのわたし。ほんとうに馬鹿みたいじゃん。ああもうこれもそれも全部ブン太が悪いんだ。だってわたしは小っちゃい時からずっとずっとずっとずっとずっと、







夜闇、静寂の中。突如としてお気に入りの曲が携帯から大音量で流れてきたおかげでわたしの心臓が勢いよく跳びはねた。慌ててディスプレイを確認すると、メールを着信したようだった。差出人は、丸井ブン太。時刻は0時0分。嘘でしょそんなまさか。
メールを開くとたった一言、「窓、開けてみろよ」と書かれてあった。わたしは今の今までベッドに寝そべっていたせいで気怠くすっかり錘になった足をもつれないように慌てて動かすと、カーテンをめくって窓から外を覗き見た。すると林檎みたいな真っ赤な髪の毛の男の子が2階のわたしの部屋を睨むように視線を向けて突っ立っている。思わず目玉が飛び出そうになった。


「ブ、ブン太…こんな時間にどうしたの!?」

気付いたら、玄関を飛び出していた。ブン太は春とはいえまだ寒いというにも関わらず、スウェットに薄手のパーカーを引っ掛けるという至極寒そうな格好だったため状況と相まって余計にびっくりした。まあわたしも人のこと言えない服装なんだけどね。

「……誕生日」
「うん」
「まだ何が欲しいか言ってなかっただろい」
「、あ」

まさかそんなことを言いに来たのだろうか。口をあんぐり開けるわたしを見て、ブン太は少し満足げににやりと笑う。どきん。その仕種にまたわたしの心臓は手で鷲掴みにされたみたいな感覚を覚えた。ダメだ、やっぱり慣れそうにないや。だってブン太ってばかっこ良すぎるんだもん。仕方ないよ。
今だにどきどきしたままブン太の瞳を見つめる。街灯の光を映した瞳は、まるで空に広がる星屑をみんな閉じ込めたみたいにきらきらしている。綺麗。


「俺、お前が欲しい」


ってゆうことだから。そう呟いて冗談めかしく微笑むブン太がわたしの手首を掴んで引っ張った。始終とても強引な流れだというのに足取りは嘘みたいに軽い。夜空はきらきら、心はふわふわ。ごめんなさい神様、今日はブン太の誕生日なのにわたしばっかり幸せになっちゃってる。どうしよう。わたし今ほんとうに幸せ。だから何処に行くつもりなの、なんてゆう野暮なことを聞くのはもうやめておこうと思うんだ。
誕生日おめでとう、ブン太。

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