4-1 咆哮
薄い雲のヴェールから覗(のぞ)く冷青色の満月が、煌々と夜空を支配していた。
風はひゅうひゅうと鳴き、岩壁には荒々しく波が打ち寄せる。
どこはかとなくもの悲しさを感じさせる夜の海に、異常なまでの存在感を示すのは、きりたった断崖絶壁とその頂(いただ)きにそびえる古い城だった。
石レンガ造りのその城は、そこかしこが崩れ落ちており、かつての壮絶な戦を物語っていた。
周囲の森と同化するほど伸びきった雑草で覆われている。
――ざわり。
刹那、一際激しい一陣の風が通り過ぎると、木々が不気味にざわめいた。
どこからか獰猛な獣の咆哮が、夜闇を切り裂くように響き渡る。
「いよいよか」
今宵、古城の円形の広間には、数にして三十近くもの“モノ”たちがいた。
蝋燭の光以外、穴の開いた天井から漏れる僅かな月の光に頼るしかない、薄暗い広間。
人の姿をした“モノ”たちは、中央の台座に置かれた赤黒い塊(かたまり)に、こぞって期待と不安の入り混じった視線を向けている。
拳ほどの大きさが石あるそれは、石のようにも見える。しかし、石とは決定的に違うものだとわかる。 赤黒い何かは、生き物のように脈動していたからだ。
「いよいよあの方が復活なされる」
「ああ。あともう少しだ」
ごくり、と誰かが生唾を飲むと、広間はいつになく張りつめた空気を纏った。
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