3-15

「ナイト!」

 初めに気が付いたのは凛だった。
 いつの間にかアッシュの背後に、黒髪の青年が立っていた。
 深い海の色を想像させる青く切れ長の瞳と、程よく筋肉のついたバランスの良い肢体。
 甘い声で囁かれたら、落ちぬ女などいないであろう程の美形だが、いかんせん性格はねじ曲がっている。

「ナイト! お前、どこへ行ってたんだよ!?」

 振り返ったアッシュの問いかけにも、その端正な顔を崩さず、冷淡に呟いた。

「別にどうという程のことでもない」
 
「別にって、あのな――」

 アッシュの非難は凛の華やいだ声に遮られた。

「ナイト、今の本当!? 私、学校に行ってもいいの?」

「ああ。ずっと城に籠りきりより遥かに勉強になる。それに――」

 ナイトは一旦言葉を切ると、凛をじろりと見まわしてから、

「誰もお前が女王などとは、夢にも思わないだろうからな」

悪戯っぽく笑った。

「そうよね! …………ってそれどーゆー意味よ!?」

「そのままの意味だ」

 凛が笑顔を一転させ睨みつけると、ナイトは淡々と言い放った。


「ちょ、ちょっと待てよ! 俺は反対だ」

「僕もだ。どうかしているぞ、ナイト」

 アッシュが大げさにおどけて見せるのに、ルジェは真摯な声音で同意する。

「そうですか? 私はナイトレイの意見に賛成ですよ。外の世界を知ることは、きっと凛さんのためになるはずです」

 グレイズは落ち着いた低い声で言った。

「ルーク!」

「だけど、外は危険すぎる! なあっ、そうだよなルジェっ!?」

「ああ」

「だったら守ればいい。それが“薔薇の騎士(俺たち)”の役目だろう?」

「「……っ!」」

 ――もはや二人はぐうの音も出なかった。

 顔を見合わせると、がっくりと顔を落して深いため息をついた。

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