3-14
「おい、馬鹿女! 稽古の時間だぞ、まだ支度出来ないのか」
バンッ、と勢いよく扉が開いて、木の棒を担いだルジェが仁王立ちしていた。
その後ろではグイレズが軽く会釈し、アッシュは満面の笑みで手を振っている。
呆然としていた女達は、突然の訪問に口々に嬌声を上げると、髪や着衣の乱れを直しだした。
ルジェはそれを一瞥すると、不快げに顔をしかめ、
「うるさい」
と低く言って鋭く睨みつける。
女たちは、びくっと身を竦(すく)ませて、静止したまま動かなくなった。
凛はため息をついた後、飛びかからんばかりにルジェの腕を掴んだ。
「みんな! ちょうど呼びにいこうと思ってたところなの。ねえ聞いて!」
凛の剣幕に、ルジェは一瞬たじろいてから皮肉を言った。
「昨日あんなに落ち込んでいたかと思えば、今度は一体なんなんだ?」
「あのね、ベルゼイナってところに、学校があるんだって! 私、そこに通うわ!」
「「なっ……!!」」
瞬間、ルジェもグレイズもアッシュも、一様に目を見開いて絶句した。
「――いきなり何を言うかと思えば――。お前はまかりなりにも女王なんだぞ!? 駄目に決まっているだろう!?」
牙を剥いて怒鳴るルジェに負けじと、凛も声を荒げる。
「じゃあ女王だってこと隠せばいいじゃない! とにかく、私は絶対に行くわ!」
「駄目と言ったら、絶対に駄目だ!」
「なんでよ!?」
「まあまあ凛ちゃん、落ち着いて」
「アッシュ――!」
「いいかい? 街へ出るってことはとても危険なことなんだ。吸血鬼は何も友好的な奴らばかりじゃない。ヴァンピルや、人狼だっているかもしれない。十分な警備も出来ないそんな場所に、君を連れてはいけないよ」
「でも……!」
わかっている。だけど――。
アッシュに優しく諭されると、凛は俯(うつむ)いて唇を噛みしめた。
「行かせてやればいいだろう?」
その時ふいに、耳に馴染む低い声がした。
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