3-8
会議がはじまってから二時間は経過しただろうか。
夜がすっかり更けても、議論は続いていた。
意見の相違からか、怒鳴りあう声が頭の片隅で聞こえる。
無い知識を総動員して、耳を傾けていた凛も、ここにきてとうとう船を漕ぎだした。
何しろ会話には参加させてもらえず、暗号が飛び交っているようにしか聞こえないのだから仕方がない。
いくら集中しようとしても、意識はどこかに飛んでいきそうになって、凛は生あくびをした。
「――さま。――女王様?」
一瞬の沈黙が取り巻いた後、ユーグ・ヴァーグ卿が凛を覗きこんだ。
「は……?」
顔をあげると、吸血鬼達が冷やかな視線をこちらに送っている。
暫し考えてから、凛はやっとその意味に気が付いた。
「あっ、ごめんなさい!! わたし――」
勢い良く椅子から立ち上がり、言い終わるより先に、卿は諦めにも似た深いため息を吐くと、
「それでは先に進めてもよろしいかな?」
ぴしゃりと言い放つ。
「は、はい」
やっとの思いでそれだけ言うのが精一杯だった。
激しい後悔と情けなさで、顔から火が出るほど恥ずかしい。
「女王様はさぞ余裕がおありのようですな。我々の話など聞かなくても、人狼どもを滅せる自信があるのでしょう。何しろ今までに類を見ないお力をお持ちだそうで」
唇を三日月に歪めた男の、辛辣な皮肉。それに呼応するようにあちこちで起こる密かな嘲笑。
するとルジェはふいに立ち上がり、勝気な碧色の瞳で男を睨みつけた。
「恐れながら、ユスティダ様。女王はまだこちらの生活に慣れておりません。その上日夜勉強に精を出しておいでです。そのようなお言葉は控えられた方がよろしいかと」
「ルジェ……!」
「これはこれは、出過ぎたマネを」
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