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「おい馬鹿女。迎えに来てやったぞ」

「凛さん、そろそろ時間ですよ。行きましょうか」

 ちょうど支度が終わった頃、ルジェとグレイズが訪ねて来た。

「は、はいっ!」

 凛は顔の筋肉を強張らせて、長椅子から勢いよく立ち上がった。
 グレイズはくすり、と笑って言う。

「そんなに緊張しなくてもいいんですよ?」

「だっ、だって……!」

 今になって不安になってきた。そんな偉い吸血鬼達の前で、女王らしく振舞えるんだろうか――?

「何も考えていなさそうなのに、一丁前に緊張するんだな」

 ルジェは珍しいものでも見たように感心してみせた。

「ル、ルジェ!! あんたいっつも嫌味ばっかり言って! 私は今まで普通の女子高校生だったんだからね! 緊張するに決まってるでしょ!」

 つい最近まで、凛は日本で暮らす普通の女の子だった。
 なのにいきなりこの世界に連れて来られ、女王だなんだと言われても困るというものだ。
 ルジェはため息をついてから、

「前にもいっただろう。お前は何もしなくていいって。そのために俺たちロゼリオンがいるんだからな」

そっぽを向いて答えた。その横顔がほんの少し赤くて、照れているようにも見える。

「う、うん……」

 凛は一瞬目を見開いて言った。
 
(ん? 今のは一応励ましてくれた……のかな?)

「そっ、そんなことより、早く行くぞ。馬鹿女っ!」

 こほんっ、とわざとらしい咳払いをして誤魔化そうとするするルジェに、凛は思わずぷっとふきだした。
 素直じゃない奴――。

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