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「ルーク!」「グレイズさん!」
木陰の長椅子に腰掛けて古書を読んでいたグレイズ・ルークスフィードは、こちらを見やるとクスクスと微笑した。
ウェーブのかかった紫色の髪に、紫苑色の穏やかな瞳。すらりとした長身で、驚くほど美形の青年である。
「ルジェ、大人げないですよ? 凛さんは異世界で育ったのですから、いきなり剣術なんて出来るようになるはずがありません。それを教えるのがあなたの役目でしょう?」
「うっ、まあそれは……そうだけど。こ、この馬鹿女が――」
グレイズにたしなめられると、ルジェは急にしどろもどろになった。
「……そうだ! グレイズさんが稽古してくれませんか? ルジェなんかに教えてもらうより、絶対にいいわ!」
頬を膨らませてムッとしていた凛は、急にぱあっと満面の笑みを浮かべて言った。
グレイズは少し驚いた後、申し訳なさそうに眉根を寄せる。
「すみません、凛さん。私はどうも手加減するのが苦手でして……。それに、ルジェは大分わがままで短気で生意気なところもありますが、こう見えてロゼリオンの中で一番面倒見がいいんですよ」
「……オイ、ルーク。それは褒めているのか……?」
額に手を当て、ルジェは大きなため息をついた。
「そう、ですか。じゃあアッシュかナイト――」
言いかけて、ナイトに稽古なんて頼んだら、ルジェ以上の罵詈雑言が飛んできそうだと思い至った。
それに今、二人は城(ここ)にいないのだった。
凛はがっくりと頭を垂れる。
「それより凛さん、お昼の支度が出来たようですよ」
グレイズは城の方を見やり、持っていた本をぱたりと閉じて微笑した。
ちょうど侍女のティティーが、昼食を持ってやってくる所だった。
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