2-1 レヴァンタイユの吸血鬼
「やあっ!」
珍しく澄み渡った青い空に、凛の気合の入った掛け声は吸い込まれていった。
ここは深い森に囲まれた、吸血鬼(ヴァンパイア)達の住まう城――漆黒のレヴァンタイユ城。その園庭。
時刻はちょうど太陽が真上に来る頃で、よく手入れのされた緑の芝に、暖かい光が降り注いでいた。
「えいっ! やあああっ!」
もう何十回目になるだろう。声とともに、凛が木の棒を振り下ろすと、ルジェは生あくびをしながらいとも簡単に受け止めた。
エマリエル卿の事件が片付いてから早二週間が過ぎた。
凛はここ数日、ルジェを相手に剣の稽古をしているのだった。
女王になると言ったはいいものの、みんなの足手まといにはなりたくない。
またいつ強い敵が襲って来るかもわからないのだ。
(自分の身は自分で守れるようにしなきゃ。)
「おい、まだやるのか?」
ルジェは気怠(けだる)そうに目をこすりながら言った。
「ちょっとルジェ! 真面目にやってよ! これじゃあ全然稽古にならないじゃない!」
「なんだと!? 真面目にやってないのはどっちだ! こんな攻撃、目を瞑っていても避けられる! それとも何か? これがお前の全力だとでも言うのか?」
「なっ……! だ、だったらなによっ!」
「だとしたらお前は吸血鬼(僕たち)の女王どころか下等な人間以下だな! いや、虫ケラか」
ルジェはふふん、と勝ち誇ったように笑う。
切りそろえられた鮮やかな赤い髪に、勝気な碧色の瞳。
ルジェは少年の姿をしていても、もう五百年も生きているそうだが、凛にはただの悪ガキにしか見えなかった。
「だから……だからこうしてアンタに稽古頼んでるんじゃない! それなのにいつもいつも眠たそうにばっかして! 私が弱いのはルジェの教え方が悪いせいよっ!」
「なっ、なんだとー!? だったら他のヤツにでも頼めばいいだろ!? 僕だってお前のお守りなんかお断りだ!」
「お守りですってえ……!? アンタねぇ――」
「まあまあ、凛さん、ルジェ。少し落ち着いたらいかがです?」
ゼイゼイと肩で息をする二人に、穏やかな声の主が割って入った。
[ 9/34 ]
[†BACK] [NEXT†]
[しおりを挟む]
[表紙へ]