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「ナイトレイ……?」

 顔をしかめてあっさりと唇を離したナイトに、エリーゼは訝(いぶか)しげな視線を送った。
 そして今度は自らナイトに腕を絡めて、彼の首筋に口づけをする。

 ヴァンパイアにとって互いの血を吸いあう行為は、人間でいう愛情行為と同じ意味合いを持つ。
 エリーゼの女性らしい豊かな肢体と熱を感じながら、ナイトは自らの心が酷く冷めていることに気がついた。

 何度か触れたあの少女の腕は、もっと細くて弱弱しかった。
 しかしそれでいて燃え盛る炎のように強い芯があるような、そんな腕だ。

 ふいに、ナイトの頬にエリーゼの手が触れた。
 伏せた睫毛と桃色の唇が口付けをせがむように近づいてくる。
 それが触れるか否や、

「やめろ」

 ナイトの唇から発せられたのは、刃のように冷酷な輝きを含んだ低い声だった。
 なぜか凛という少女を思い出してしまう、自分自身を自辱する声でもあったのかもしれない。

「? どうして――」

 ナイトは不満げなエリーゼの身体を強く押しのけた。
 その青色の瞳は、静かな苛立ち以外何の感情も映し出してはいない。

「ナイトレイ、どうしてなの?」

 エリーゼは楽しい玩具を取り上げられた時の子供のように、憮然と頬を膨らませ、攻めるようにナイトをねめつける。

「もう用は済んだ。帰らせてもらう」

「ナイトレイ! 待って!」

 冷然と言い放って背を向けたナイトの袖を強く掴むと、エリーゼは金切り声をあげた。

「ま、また女王の所なの?」

 ナイトは僅かに眉を顰(ひそ)め、無言のまま顔だけを振り向かせる。
 それを肯定と捕らえて、エリーゼは悔しさで唇を強く噛み締めた。
 エリーゼはナイトをキッと見据え、全身をふるふると震わせて叫んだ。

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