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 ここ数日、現代日本ではまず起こりえないことが立て続けにあって、凜にとっては恐怖が一番大きかった。
 少量の血すらほとんど見たことがない。
 ドラマで見る血は陳腐な偽物で、たいして怖そうでもない演技の殺人。

 そんな世の中で生きてきた。
 しかし今の世界で起こっているのは、本物だ。
 演技でもなんでもない。

 元の世界に通じる扉が開いたのは、エマリエルドールの街。
 凛は、その街にいけばもしかして帰れるかもしれないという淡い希望を抱いていた。
 勇気を振り絞って窓から身を乗り出す。

「うわっ、怖い。下は見ないようにしないと」

 この部屋は、三階程度の高さがある場所にあるらしい。
 凛は自分にがんばれといい聞かせると、シーツを伝って降り始めた。
 どんどん降りていく。

「どうか解けませんように」

 瞬間、祈りも虚しく結び目が解けた。

「うわっ」

 鈍い音がして凛は地面に落ちた。

「痛っ! びっくりした。なんだもうすぐだったんだ」

 辺りをきょろきょろ見回すも、城の外には誰もいなかった。
 地上に降り立った凛は、森を抜けこっそりと城から姿を消したのだった。


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