3-42
グレイズは無表情に自分の頬を撫でると、囚人を睨(にら)みすえる。
そして次の瞬間には表情を一変させ、にこりと微笑した。
「そうですか? では遠慮なく」
囚人の首筋を左手で掴んだ。
手加減などしていないことは、囚人の首にくい込む彼の爪とそこから溢れ出る血液が物語っていた。
しかし、このような狂気をしているグレイズに対して、初老の男とナイトはただ見つめるばかり。
「ぐっ……」
囚人は短い悲鳴を上げるが、首を潰されていて思うように声が出ないのだろう。
虚(むな)しく口が開閉し、そこから空気の抜ける音が聞こえる。
柔らかな微笑を崩さないグレイズの口から、二本の大きく鋭い牙が伸びてくる。
グレイズは妖しく瞳を光らせて囚人の首筋に顔を寄せ、牙を突きたてて溢れ出てくる血を啜(すす)りはじめた。
グレイズの口元からあふれ出した血液は、囚人の傷ついた鎖骨へと流れてゆく。
ごくりと喉を鳴らして牙をたてるその姿は、まるで修羅のようだった。
囚人は全身を小刻みに痙攣させると、しだいに青ざめていく。
「がっ……あっ」
彼らは、街で会ったような恐ろしいヴァンパイアではないと思っていた。
けれど、やはり彼らも嬉々として人を殺す冷酷無比な化け物だったのだ。
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