4-3

「……」

 しばらく歩いていると、ふと前方から何やら話し声が聞こえた気がして、やっと誰かを見つけた嬉しさから足早になっていく。

「よかった、やっぱりいたんだ」

 そう思った瞬間、凜は自分の間違いに気づいてすぐさま近くの家の壁に隠れた。

 そう、それはヴァンパイアだったのだ。
 月明かりに照らせれて浮かび上がったのは、山のような大男と地面に倒れこんだ女性。
 大男は、柄に大きな青い宝石の付いた大降りの長剣を持っている。

「こ、来ないで……」

 女性が震える声で呟いた。

「ハハハハハッ、上手く鳴けよ」

「ぎゃああ!!」

 ヴァンパイアは女性の命乞いを無視いて長剣を振りかざし、女性の太ももに突き刺した。
 にやりと唇を三日月に歪ませて惨忍な笑みを浮かべる。

「ウ、アアアッ……」

 女性は血に濡れた太ももを必死に抑えながら、苦悶の表情で悲鳴を上げている。
 それを大男はまるで花でも愛でるかのように、楽しげに笑ってじっと見つめていた。

 己(おのれ)の頬にはねた女性の血を、長い舌でぺろりと舐めとると、その口元には鋭い牙が現れる。

「……――!」

 凜は声にならない悲鳴をあげた。
 恐怖で足がすくんでいる。
 テレビで見る殺人とはまったく違う。
 鮮血も、目に焼きつくその光景も、はるかに生々しかった。
 周囲には鼻をつく血の生臭い匂いが漂ってくる。
 凜は吐き気を覚えた。

「あいつもヴァンパイア……」

 早く逃げなきゃと必死に足を動かそうとしても思うように動かない。
 今すぐに逃げ出したいという思いが凜を支配していた。

 大男は抵抗をやめてぐったりとした女性から剣を引き抜くと、その剣についた血を赤い舌でぺろりと舐めた。
 ごくりと喉を鳴らして満足そうに笑みを浮かべると、女性の血まみれの足を掴んで持ち上げる。
 そしてその傷口に顔を近づけて、溢れ出る血を啜(すす)りはじめたのだった。


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