3-3
◇ ◇ ◇
凛は、ぼんやりとした意識の中で僅(わず)かに目を開いた。
まとまらない思考を最大限に奮い立たせて意識を保つ。
身体が重たい。
まるで全身が石にでもなったかのように、指先を動かすのでさえ思うようにいかなかった。
どうやら大雨が降っているようで、全身が濡れて凍えるように寒い。
濡れた黒い制服が、肌にぴったりと貼り付いて気持ち悪かった。
その時、ふと自分意外の肌の温もりと息遣いを感じていることに気づく。
誰かに背負われているのだろうか。
凍える寒さの中で、その背中がとても暖かく心地よい。
凛を背負った人物は雨の中を足早に歩いていき、寂(さび)れた民家に入った。
住人の老人と人物が、何かを話しているのがぼんやりと聞き取れる。
「五百アールだ」
「こんなしけた店でよくとるな」
「近頃は旅人も減ってね。こんなご時勢だ、仕方あるまい」
人物は侮蔑をこめて鼻で笑うと、老人に銅貨(コイン)を支払った。
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