3-2
女は、雨に濡れながら手に果物の入った袋を大事そうに持って走ってきた。
大雨のため女が足元を見ながら走っているせいか、ヴァンパイアに気づかない。
「よう、こんばんは」
正面といえるほどに近づいてきた女に向かって、ヴァンパイアはわざとらしく話かけた。
ようやくヴァンパイアに気づいた女が、はっとしたように動きを止める。
石化したかのように硬直する女の瞳には、血にまみれたヴァンパイアが映っていた。
「母さん!」
少年は悲痛な叫び声を上げると、目を瞑り崩れ落ちるように座り込んだ。
少年にできることは、母の無事を祈ることだけであった。
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