3-5


 瞬間、パン、と小気味の良い音がして青年の頬に、覚醒した凜の平手打ちが見事にヒットしたのだった。

「起きたのか」

 人物ははっと驚いたように凛の顔を見つめ一言、場に似合わず淡々と言葉を紡ぐ。

 鮮明になってきた意識の中で懸命にベッドから起き上がると、今し方脱がされそうになった制服を両手でがっしりと掴み、ぜえぜえとする荒い息を必死に整えようと試みたがうまくいかない。
 心臓が跳ね上がるように脈を打って顔が火照り、恥ずかしすぎて涙が滲んできた。

「ここはどこ? あんた誰よ!」

「起きたのか」

「質問に答えて!」

 怒りを湛えた形相で尋ねる凛に対して、青年は相変わらず淡々としている。

「こんな所に連れてきて、こんな事……しようとするなんて最っ低!」

「何を勘違いしている。誰がお前のようなガキを襲うんだ」

人物は心底うんざりした様子で答えた。

「なっ、あんたねえ……、人の……女の子の胸見たでしょ! 胸!」

「あ? どこにそんなものがあったんだ? 何もなかったぞ」

「あっそうよかった、なかったのね……ってふざけないでよ! 小さいけどちゃんとあるんだから!」
「……お前、馬鹿か?」

「うるさい!」

 興奮して言いたいことがまとまらない。
 ほとんど初対面みたいな奴相手に何を言ってるんだろう。

「あんたねえ、ちょっとくらい顔がいいからって調子に乗んないでよ。私は騙されないんだから!」

「そうか。起きたなら話は早い。濡れた服をこれに着替えろ」

「ちょっと、勝手に話変えないで……わっ!」

 尚も文句を言おうとする凜に向かってにべも無く服を放り投げると、青年はすたすたと部屋から出て行ってしまう。
 何か投げつけてやろうと思ったが、生憎投げられるようなものは何もなかった。

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