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「ああ、なんともない」
「そんななわけないでしょ!」
「ほんとうだ」
そっぽを向いて強がるナイトは、凛にふっと視線を移して言った。
「お前こそ血が出ているぞ」
瞳が僅かに揺れ、無表情ながらも心配してくれているのがわかる。
頬の傷はというと、確かに液体の感触はあるのだが、ちくちくと痺れていて感覚があまりない。
「ううん、平気だよ」
未だに血が止まらず、大きく切ったのだと思うけれど、自分より彼の方がよほど酷い怪我をしている。
弱音など吐いてはいけない。
皆が必死で戦っている時に自分は何もできない。
今出来る事は足手まといにならないことだけなのだ。
無理矢理微笑んだ凛を、ナイトは真摯な光を宿した瞳で見据えた。
「今の俺達ではあいつを倒せない。凛、お前の力を貸せ。それに契約もなしにあれほど力が増すということは――」
後半は独り言のように思案しながら呟く。
凛は耳を疑った。
自分に何ができるのかわからないまま、凛は首を縦に振る。
「うん、もちろんよ。でも何を……?」
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