5-45
「何故、何故だあっ!」
唾を飛ばしながら下品に叫ぶ卿に構わず卿の懐へ入り、ナイトは更に斬りつけると、卿の上半身を斜めに切り裂いた。
エマリエル卿は地獄の底から湧き出るような絶叫をあげて地に伏したのだった。
ナイトは顔色も変えずに卿を見下ろすと、寧ろ笑みを浮かべて言った。
「止(とど)めだ」
「くそ、くそおおおっ!」
まだ立てないでいるエマリエル卿は顔を歪めて絶叫し、ナイトは長剣を構えなおす。
「きゃああっ!」
その時、戦いを見守っていた凛が、突然後ろから突然羽交い締めにされて悲鳴をあげた。
ナイトははっとして動きを止める。
凛が眼球だけを動かして後ろを見やると、牙をむき出しにしたヴァンピルはにやりと不気味に笑う。
そして凛の喉元に押し当てた短剣に力を込めた。
「いや」
「凛!」
殺される! そう思った時、ヴァンピルは短く悲鳴をあげて吹き飛んだ。
頬に冷たい感覚が走る。
一瞬思考が停止し、事態を把握するのに時間がかかったが、剣をかなぐり捨てたナイトがヴァンピルの顔面を殴ったのだった。
軽く五メートルほどは軽く飛ばされ、ピクピクと痙攣していた。
「大丈夫か、凛?」
「ナイト!」
ナイトは凛に向き直って静かに問いかけた。
「馬鹿め! 剣を捨てるとはな!」
嬉々として笑うエマリエル卿が二人に向かって剣を振り下ろす。
「ナイト! きゃああっ!」
ナイトは振り向きもせず、驚く凛を抱きかかえて跳躍した。
そのまま卿と距離をとって着地する。
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