5-44

 ナイトに向かって走りながら、己の剣刃に付着した血液を振り落とす。
 図体に良く似合う太い長剣をナイト目掛けて振り下ろした。
 ギイン、という鈍い音とともに、双方の刃がぶつかり合う。

「チッ!」

 エマリエル卿は舌打ちとともにナイトの剣を振り払った。
 返しの力で再び攻撃をするのを、ナイトは上体を反らしてかわした。
 僅かに掠めた頬を、一筋の血が伝う。
 それにも怯まず、今度はナイトが攻撃を仕掛ける。
 双方の攻防が続く。
 ナイトの一撃がエマリエル卿の左腕を掠めると、卿は後方に飛びずさり一端距離を置いた。

「貴様……! 何故この短期間でそこまで腕をあげた?」

「さあな。俺もここまでとは思わなかったよ」

 エマリエル卿が訝しげに眉根を顰める。
 ナイトは薄く笑った。

「俺様をなめるなよ!」

 エマリエル卿は剣を構えなおすと、今度は姿勢を低くして突進する。
 ナイトは宙に飛び上がってそれを避け、そのまま剣を振り下ろした。

「ぐあっ!」

 ナイトの剣が卿の右肩を貫いた。
 即座に剣を引き抜くと、短い悲鳴をあげた卿の傷から勢い良く鮮血があふれ出してくる。
 
「クソッ――」

 そう吐き捨てて振り向きざまに剣を薙いだ。
 しかしそれをナイトは後方に飛んでかわす。
 実力の差は明らかだ。
 エマリエル卿は困惑を隠せないでいる。

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