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そしてロコの腹から滴る血液を、エマリエル卿は大きな口を開けて受け止めていたのである。
目を一杯に見開いたロコは、力なく身体を弛緩させて、持っていた短剣を地面に落とした。
舌を突き出して滴る血液を飲みほしていたエマリエル卿は、こちらに気づくとゴミでも捨てるようにロコを放り投げた。
「ロコ!」
「またお前等か。だが一足遅かったようだな」
エマリエル卿は血で汚れた口元に残酷な笑みを浮かべる。
「ロコ!」
「待て、凛!」
凛はナイトの静止も聞かず、ロコの元へ駆け寄った。
倒れたまま動かないロコの頭を、自らの膝に乗せてやる。
「ロコ! ロコしっかりして! お願い、お願い……、誰か、誰かお願いロコを助けて!」
ロコの笑顔を最後に見たのはいつだっただろうか?
太陽みたいなロコの笑顔はもう思い出せなかった。
腹部からはとめどなく血液があふれ出し、そこからはロコの生命力をも失われていくようだ。
顔は青ざめ、体温が感じられない。
もう助からないことは明白だったが、それでも凛は叫ばずにはいられなかった。
「お、お姉ちゃん……、来てくれたんだね」
ロコはうっすらと目を開けて、弱弱しく呟いた。
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