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◇ ◇ ◇
こんなに走ったのは生まれて初めてだ。
炎のせいで、全身が汗ばんでいる。
夜だというのに街は明るかった。
露出している肌からちりちりと焼ける痛みを感じる。
ナイトの後ろを走りながら、凛は罪悪感に囚われていた。
自分がもっと早くに女王になっていれば、こんなことは起こらなかったのかもしれない。
こんなに大勢の犠牲を出すまでわからなかった自分が憎かった。
「気にするな、お前のせいじゃない」
ナイトはそんな凛の心を読んだかのように答えが、凛の気持ちは晴れなかった。
永遠とも一瞬とも思える時が過ぎ、二人はこの街の大通りに出た。
通りに面した家々にも炎は容赦なく襲い掛かり、人々がいたるところに倒れている。
「ハハハハハハハッ!」
その時だった。
大男――エマリエル卿の笑い声が聞こえたのは。
数十メートルは先であろうか、炎に照らし出されたエマリエル卿は、何かを天高く持ち上げていた。
良く見ればそれは人のようだ。
「嘘、嘘よね?」
悪い予感はしていた。
凛は今までそれを、一生懸命頭から振り払っていたのだった。
「――ロコ? いやあっ――――!」
それが何なのかわかった時、凛は自分でも理解できないほど大きな悲鳴をあげていた。
その声は耳を塞ぎ身体を丸めた凛の、全身が空洞であるかのように反響する。
ゆっくりと瞼を開いた凛の瞳に、腹を長剣に突き刺され宙にぶら下げられたロコの姿が映った。
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