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「あんな大男、それに大分変わってはいるが、あの顔は奴しかいない! ヴァンピル共を連れてきて、俺の妻と娘を、殺したんだ。信じていたのに……」
言うが否や、青年の頬に一筋の涙が伝っていく。
「いたんだな? エマリエル卿が今ここに」
もう動かない身体を必死に操って、青年は喉でこくりと頷いた。
見れば青年のすぐ傍には、女性と子供が寄り添うようにして死んでいる。
「もしかしてロコはエマリエル卿を追って……?」
「ああ、その可能性は高い」
母の復讐を果たす為にエマリエル卿を追っていったのかもしれない。
だとしたらもうロコは……。凛は自分の考えを振り払うように顔を振った。
「最後に聞かせろ、奴はどこに行った?」
青年は瞼に覆われる前に瞳を左に動かし、二度と動かなくなった。
「しっかりして!」
凛がいくら呼びかけても、もう返事はない。
「行くぞ凛。 奴はこっちだ!」
凛は強く拳を握り締め、ゆっくりと立ち上がって走りはじめる。
夜空にはそんな二人をあざ笑っているかのような三日月が浮かんでいた。
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