5-38

◇ ◇ ◇

 それからはナイトに手をひかれながら、ひたすら走った。
 途中で出会うヴァンピルを薙ぎ払い、ロコの家へと向かう。
 ナイトにとって凛はお荷物以外の何者でもなかったが、彼はめずらしく文句を言わなかった。
 やがて疲労による息苦しさと、煙によるそれとで意識が朦朧としはじめた時、ロコの家にたどり着いたのだった。

「ロコ! ロコどこなの!? 返事をして!」

 すでに周囲の建物は炎に巻かれている。
 凛は炎に負けまいと、力の限り叫んだ。
 辺りを必死に探してもロコは見つからない。

「ここにはいないようだな。奴が行きそうな場所に心あたりはないか?」

「心あたりなんて――」

 ベクおじいさんのところかとも思ったが、夕方には帰ってきているはずである。
 そこではないとしたら――。

「逃げろ、早く……」

 二人が振り向くと、全身から血を流して地面横たわる青年を見つけた。

「大丈夫ですか?」

 凛は青年に駆け寄った。
 頭部から流れ落ちた血液は、青年の瞳を赤く染め上げる。
 眼球は空ろに泳ぎ、僅かに動く唇で必死に何かを訴えようとしていた。
「逃げろ、エマリエル卿に……殺されるぞ。奴は、俺達を騙していたんだ」

「エマリエル卿だと? なぜそれを知っている?」
 

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