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◇ ◇ ◇
それからはナイトに手をひかれながら、ひたすら走った。
途中で出会うヴァンピルを薙ぎ払い、ロコの家へと向かう。
ナイトにとって凛はお荷物以外の何者でもなかったが、彼はめずらしく文句を言わなかった。
やがて疲労による息苦しさと、煙によるそれとで意識が朦朧としはじめた時、ロコの家にたどり着いたのだった。
「ロコ! ロコどこなの!? 返事をして!」
すでに周囲の建物は炎に巻かれている。
凛は炎に負けまいと、力の限り叫んだ。
辺りを必死に探してもロコは見つからない。
「ここにはいないようだな。奴が行きそうな場所に心あたりはないか?」
「心あたりなんて――」
ベクおじいさんのところかとも思ったが、夕方には帰ってきているはずである。
そこではないとしたら――。
「逃げろ、早く……」
二人が振り向くと、全身から血を流して地面横たわる青年を見つけた。
「大丈夫ですか?」
凛は青年に駆け寄った。
頭部から流れ落ちた血液は、青年の瞳を赤く染め上げる。
眼球は空ろに泳ぎ、僅かに動く唇で必死に何かを訴えようとしていた。
「逃げろ、エマリエル卿に……殺されるぞ。奴は、俺達を騙していたんだ」
「エマリエル卿だと? なぜそれを知っている?」
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