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アッシュの強さを目の当たりにしたヴァンピルは、全身を痙攣させひゅうひゅうと鳴く女を放り投げ、知性の瞳に怪しい光を宿らせてこちらを睨んだ。
口元を血で汚してにっ、と笑う姿には、知性は感じられなかった。
「全く下品な。食餌の相手には優しくするものですよ? 快楽を与えてこそより一層味が増すというのに。そうでしょうアッシュ?」
「ああ、その通りさ。これじゃあ折角の食餌も不味いだろ」
アッシュは地面に横たわる女を見つめると、舌を出して顔をしかめた。
「俺様にとってはこの死を恐れる顔と、そして悲鳴が獲物の味を際立たせるのさ」
口元に付着した血を長い舌で舐めとり、ヴァンピルは狂気の笑みを湛える。
「下品に加えて悪趣味ときた。やっぱりお前達のような出来損ないのヴァンピルとは分かり合えないな」
「そのようですね」
「分かり合えなくて結構、俺様をなめるなよ!」
ヴァンピルは腰に携えた長剣を引き抜くと、アッシュ目掛けて跳躍する。
高く飛び上がって剣を振り下ろした。
「もらった!――な、何っ……」
その時、いつの間にか剣を抜いたグレイズが、後方からヴァンピルの胸を突き刺した。
剣を引き抜くと、ヴァンピルは歓喜に表情を緩めたまま崩れ落ちたのだった。
「私がいることをお忘れですか?」
グレイズは優しく微笑すると、こちらに視線をやる。
「ナイト、凛さん! ここは私達に任せて、二人は少年とエマリエル卿を……!」
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