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瞬間、今まで黙っていたアッシュは、こちらへ強い視線を送ってくる。
グレイズとナイトもとたんに表情を引き締め、凛を見つめた。
「だけどそれは――私は元の世界に――」
「いい加減に逃げるのをやめたらどうだなんだ!? 目の前の現実から逃げるのはやめろ、お前はまかりなりにも僕達の女王なんだぞ! あのガキを助けたいんだろ?」
ルジェは華奢な身体に力を込めて叫んだ。
「凛ちゃん」「凛さん」
アッシュとグレイズが力強く頷く。
ナイトに視線をやると、彼は小さく頷いた。
逃げるのをやめるのではなかったか?
現実から目を背けて生きていくのか。
またロコを見捨てて逃げるのか。
凛は茶色の瞳に光を宿し、決意を込めて言葉を紡いだ。
「わかった。私は女王になる」
「凛ちゃん」「凛さん」
「ふ、後悔するなよ馬鹿女」
瞬間、足元に広がる黒い薔薇が一斉にざわめいた気がした。
「女王として命令します、街の人々を助けて!」
声高に叫ぶ凛の傍らで、ナイトは静かに微笑した。
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