5-34

 瞬間、今まで黙っていたアッシュは、こちらへ強い視線を送ってくる。
 グレイズとナイトもとたんに表情を引き締め、凛を見つめた。

「だけどそれは――私は元の世界に――」

「いい加減に逃げるのをやめたらどうだなんだ!? 目の前の現実から逃げるのはやめろ、お前はまかりなりにも僕達の女王なんだぞ! あのガキを助けたいんだろ?」

 ルジェは華奢な身体に力を込めて叫んだ。

「凛ちゃん」「凛さん」

 アッシュとグレイズが力強く頷く。
 ナイトに視線をやると、彼は小さく頷いた。
 逃げるのをやめるのではなかったか?
 現実から目を背けて生きていくのか。
 またロコを見捨てて逃げるのか。
 凛は茶色の瞳に光を宿し、決意を込めて言葉を紡いだ。

「わかった。私は女王になる」

「凛ちゃん」「凛さん」

「ふ、後悔するなよ馬鹿女」

 瞬間、足元に広がる黒い薔薇が一斉にざわめいた気がした。

「女王として命令します、街の人々を助けて!」

 声高に叫ぶ凛の傍らで、ナイトは静かに微笑した。


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