2-8

◇ ◇ ◇


「ねえ凛、お茶していこうよ」

 学校の帰り道、柚衣は言った。

 今日は柚衣と莉奈というもう一人の友達と三人で、開けた大通りへ来ていた。
 凜の住む小波町(さざなみちょう)は、首都圏付近ではあるが割と静かな町である。
 栄えてはいるが、住宅街が多くて高層ビルとは無縁の町で、大通りにあるカフェ“vヴィヴァーチェ”のコーヒーは美味しいと聖城(せいじょう)高校の女子に評判なのだった。

 凛はなぜかサイドメニューのチーズケーキがお気に入りで、よく友達と一緒にここへ来る。
 たわいもない会話をしながら歩いてカフェまで向かう。

「それでね、その先生がね……」

 莉奈はおしゃべりが好きで話題が尽きない。
 しかも冗談まじりに話すその話しがとても面白いのだ。

 そうしているうちに、大きな交差点に差し掛かる。
 人通りが激しく、また交通量も多い通りだ。
 凛達が交差点の手前で立ち止まり、信号が変わるのを待っていると、ふと目の前を赤い風船がふわふわと飛んでいった。

 ぼうっとそれを眺めていると、突然辺りに女性の大きな悲鳴が響きわたった。

「誰か、誰かあの子を助けて!誰か!」
 女性は血の気が引いた表情で必死に車の行き交う道路の方を指差している。
 交差点の周囲にいる人々が一斉にそちらに視線を集めた。
 凜もならって道路に視線を向けると、三歳くらいの女の子が風船を追いかけて道路の方に歩いていくのが見えた。

 それに気づいた通行人が一斉にどよめき、悲鳴をあげる。

「大変!助けなきゃ」 凛は無意識のうちにぽつりと呟(つぶや)くと、理解するよりも先に道路へ飛び出していた。

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