5-32

「アッシュ、少し落ち着きなさい。私達だってまだ信じられないのですから。それに、いくら奴が人間を殺そうとも、私達には何もできないのです。契約の元に前女王の血を飲んだエリュシオンでは、さすがに私達でも勝機はないでしょう」

 グレイズは悲しげに睫毛を伏せた。

「悪い」

 そう呟くと、アッシュも下を向いて押し黙った。
 凛は何故皆が何もしないのか不思議でならない。
 ここからは見ることのできない街を思い浮かべて、いてもたってもいられない衝動を抑えきれない。

「ねえみんな、何で助けにいかないの!? 人間を守ってるんでしょ? 強いんでしょ? 早く助けにいかなくちゃ!」

「馬鹿をいうな、何故我等が人間などという虫ケラを助けなければならないんだ!?」

 ルジェは急に激昂して凜を睨んだ。

「だって」

「確かに僕達は前女王の言いつけを守って人間に危害を加えてはいない。
しかし逆に、人間を助けてもいけないのさ。僕達は別に人間を守っているわけじゃない。前女王が死んだ今、誰も人間を助ける義理はないんだ。
僕達が問題に思っているのは、レヴァンタイユ城の近くで乱を起こしたエマリエル・レヴラーとヴァンピル共さ」

 ルジェは大して問題ではない、というように答えた。
 イライザさんの言った通り、この人達は人間をどうとも思っていないのだろうか。 女王が殺せといったら殺すのだろうか。

「そんな。そうなの? みんな、違うよね?」

 凜はアッシュにグレイズ、ナイトを順に見つめたが、その誰もが沈黙を守り、凜の望んだようには答えなかった。
 アッシュが僅かに、困った様子で眉根を寄せただけである。

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