5-31

「何だって?」

「グレイズさん、ルジェ! 一体どういうことなの?」

 凛をはじめ、アッシュも信じられないといった表情で目を細める。

「どうしたもこうしたもない、馬鹿女。エマリエル・レヴラー卿、奴が黒幕だと言ったんだ。何をするつもりなのかはわからないが、大勢のヴァンピルを配下にしている」

「凛さんの話を聞いて、怪しいと思ったので調べてみたんです。
――行方不明になった次期女王を探して旅に出たというのは嘘です。奴は街に潜んで人間達を襲っていたのです」

「やはりな」

 唖然としている凛とアッシュをよそに、なんでもない風に呟いたのはナイトだった。

「どういうことなんだ、ナイト?」

 アッシュが問いかけると、ナイトは静かに頷いた。

「街でヴァンパイアと戦ったことがある。そいつは大男で柄に青い石の入った剣を持ち、俺が全く歯が立たないほど強大な力を持っていた。
それほどまでの力を持つ者は限られている」

「僕が聞いた話によると、エマリエル卿は驚くほどの長身だそうだ」

 ルジェが絶望を口に乗せる。
 アッシュがごくっと喉を鳴らす。
 彼はもう答えを知っているようだ。
 ナイトは相変わらずの無表情で呟いた。

「そう、アストレーヌ女王の血液を体内に宿し、青の剣を賜った銀の騎士(エリュシオン)エマリエル・レヴラーしかいない」

「だけど、エマリエル卿って優しそうな感じの人だよね? ナイトだって見たでしょ? あの怪物みたいな人とは違うじゃない!」

「ヴァンパイアは極度に渇き飢えると、理性を失い、形相をも変わってしまうことがある。
しばらくは動けないだろうと思っていたが、エリュシオンとなるとあんな傷すぐに癒えてしまうだろうな」

 ナイトの言葉で凛は理解した。
 ヴァンパイアに対して少なからず好意を持っていたはずのロコの態度が、何故あれほどまでに変わってしまったのかを。
 ロコは確かに言っていた。まさかお前は、と。
 ロコは気づいてしまったのだ。
 あの夜ヴァンパイアと対峙した時に、目の前にモノが、自分の尊敬するエマリエル卿だと。
 自分の母親を殺したのもまた、エマリエル卿だということに。

「まさか! 冗談はよしてくれないかナイト。それほどの者が女王に背くなどあるわけが――あってはならないんだぞ!」

 言葉とは裏腹に、アッシュはみるみる青ざめていく。

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