5-25

 そこは沢山の絵画で埋め尽くされていた。
 壁一面に美しい女性と麗しい男性の肖像画が飾られている。
 皆一様に豪勢な服や装飾品を身に付けていた。
 ゆっくりと警戒しながら部屋へ入ってみると、なんだか皆が自分に視線を合わせてくるようで、この部屋自体が不気味に思えた。

「こんなところで何をしているのかしら?」

「わひゃっ!」

 急に声を掛けられて変な声が出るほど驚いている凛をよそに、いつの間にか後ろに立っていたイライザはくすくすと楽しげに笑った。

「あらごめんなさいね。驚いたかしら?」

「驚くに決まってるじゃないですか!」

言葉を切って口を湿らせてから言った。

「もう。――あのイライザさん、この絵の人たちって誰なんですか?」

 凛の待つ部屋へゆっくりと入ってきたイライザは、事も無げに答えた。

「ああ、これは歴代の女王様達ですわよ。そうね、アストレーヌ女王はこちらよ」

 そう言って天井に近い列にある一人の女性の絵を指差す。

「これが……私のお母さん?」

 それは石膏のように白い肌に、漆黒の髪がよく映える、この世のものとは思えぬほどに美しい女性だった。
 しかし儚げというよりは強い意志を持った瞳をして、まるで太陽の光を浴びながら大輪の花を咲かす向日葵のような威厳を感じさせる。
 
「ええ。アストちゃんには叶えたい夢があったの。けれどそれも半ばで亡くなってしまうなんてね」

 イライザの唇から笑みが消え、長い睫毛がそっと伏せられる。
 それは強気な彼女が凛にはじめて見せた、悲しみの表情だった。

「夢?」

「そうよ。ヴァンパイアとワーウルフ、そして人間が争っているこの世界を、平和に導くこと。種族の差という差別を失くすこと」 

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