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古来より王薇がある女王の娘は、次期女王として大切に育てられる。
レヴァンタイユ城から出ることを許されず、様々な教育を受けるのだ。
だから問題なくロゼリオンとの契約を終えて女王に即位できる。
しかし凜という子は異世界から来たという。
常軌(じょうき)を逸(いっ)していてはじめはとても信じられなかった。
アストレーヌ前女王の出産記録は、17年前出産直後にワーウルフの襲撃にあい、生まれたばかりの女児が行方不明になったこと意外、ほとんどが闇に包まれている。
だがそれも3年前に初めて公(おおやけ)にされたにすぎない。
それまで次期女王になるはずの女児が行方不明になったことは、レヴァンタイユ城に住むヴァンパイアだけの限られた秘密にされていたのだ。
ましてやグレイズは、異世界の存在など聞いたこともなかった。
「はは、ルーク。僕達ってついてないよな。やっとロゼリオンになれたと思ったら肝心の女王がいなくて、やっと見つけた女王はアレときた」
ルジェが自嘲気味に呟いた言葉をどこか遠くで聞きながら思考を巡らせる。
グレイズ達が新たなるロゼリオンとして城に迎えられたその日、アストレーヌ女王から自らの主(あるじ)になるはずの次期女王不在を伝えられたのだ。
アストレーヌ女王自身が異世界へ娘を送ったのだと聞いても、ナイトレイが帰ってくるまでは全てが作り話だと思っていた。
しかし異世界のことを鮮明に話すナイトレイを見て、何より凛という一風変わった少女を見てこれが現実なのだということを認める他なかった。
「どうしたんだ? ルーク」
ルジェに心配そうな瞳で見上げられてはっと我に返ると、
「いえ、凛さんにはまだ謎がありそうですね」
問いかけには答えぬまま、グレイズは紫色の瞳に鋭い光を宿らせた。
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