5-19

「これが落ち着いていられるか! くそっ、あの女。ここまで救いようのない馬鹿女だったとはな!」

「仕方がありません、彼女は別世界にいたのですから。突然のことで困惑しているんでしょう」

「だからなんだというんだ!? あんな奴が女王なら僕はロゼリオンなんて辞めて……」

「落ち着きなさい!」

 グレイズが怒鳴ると同時にびくりと身を強張らせたルジェの右腕を強く掴み、そのまま自分の方に引き寄せる。
 ルジェの燃え盛るように赤い髪がふわりと弧を描き、細い体が軽々と反転したかと思うとグレイズの胸の中にすっぽりと納まってしまった。

 まるで恋人同士のように抱き合った二人。
 グレイズは先ほどとは一転し、紫の瞳に優しい光を宿して囁きかけた。
 
「その先を言ってはなりません。あの約束をお忘れですか?」

 グレイズの脳裏をよぎるのは、白磁の肌に金色の長い髪をした女性の姿。
 ルジェを強く抱きしめながら諌(いさ)めると、彼ははっと息をのんでグレイズの胸に顔を埋めた。

「ごめん、ルーク…。僕、どうしていいかわからないんだ」

グレイズの腰にゆっくりと腕を回して、ルジェは弱弱しく呟き身を寄せてくる。

「いえ、いいんです。今回のようなことは前例のないことなのですから」

 そうしてグレイズは尚一層深く腕を回してルジェを抱きしめた。


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