5-18

◇ ◇ ◇

「ルジェ、待ってください」

「うるさい、僕にかまうな」

 グレイズが追いかける先には、ずかずかと足音荒く廊下を歩くルジェの姿があった。
 黒に近い灰色の煉瓦が敷き詰められた廊下に、ずっと向こうまで厚手の赤い絨毯がひいてある。
 同じく煉瓦の壁には、燭台(しょくだい)が等間隔に並んで明かりを灯していた。
 城内の最奥であるこの一帯には窓が無く、まだ昼間だというのに薄暗い。

 つい先ほどまで静寂を保っていたはずの場所は、湯気を吹かんばかりに顔を高潮させて口元に鋭利な牙を覗かせたルジェによって壊された。
 ヴァンパイアの牙が現れるのは食餌(しょくじ)をする際と、牙の主(あるじ)が極度の興奮状態にある時で、常に現れているわけではないのだ。
 常時あるとしたらヴァンパイアだということが餌である人間に明白になり、不都合があるからだろうか。
 グレイズはその答えを知らない。

 古くから知る友の激昂する姿を見て、グレイズは短くため息を吐いた。

「そうはいきません。お気持ちはわかりますが、少し落ち着いてください」

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