5-17

「女王様、蜂蜜湯をお持ちいたしました。失礼してもよろしいですか?」

 その時、木製の扉をノックする音と侍女ティティーの声が聞こえ、凛とアッシュは後方を振り返った。

「はい、どうぞ」

「失礼いたします。女王様、蜂蜜湯というものはですね…、アッシュ様!」

 片手で盆を持ち、もう一方の手で扉を開け入ってきたティティーは、アッシュの顔を見るや否や急いで身近な長椅子に盆を置き、深く一礼をする。
 どうやらもうロゼリオンは退出したと思っていたらしい。

「じゃあ俺は帰るから。何かあったら呼ぶんだよ?」

 ティティーに軽く手を振ると、凛に背を向けて歩き出す。

「アッシュ!」

「うん?」

 アッシュが凛に向き直り、きょとんとして続きを待っている。
 思わず声を掛けてしまってから、ずっと気になっていることを口にしてみた。

「あの、そういえばナイトはどうしてるの?あれから見てないけど」

 城に帰り、中庭に来たところまではいたのだが、城内に入ってからはずっとみていない。

「それならあいつはエリーゼのとこに行ってるぜ」

「エリーゼ?」


「ああ、あいつの女さ」


 呆然と立ちすくむ凛に手を振り、アッシュは部屋を後にした。
 一方凛はというと、彼がいなくなってからもずっと彼が言った言葉が耳から離れない。

 ちくり、と心臓に小さな棘(とげ)が刺さったかのような痛みを感じた。

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