5-15
クラスの男子ともあまり話したことのない凛には、この世の物とは思えないほど麗しい異性を前にして当然の反応である。
心臓が高鳴り、彼に聞こえてしまうのではないかと不安になった。
アッシュはというと、当に自分の魅力をわかっているようで、あたふたする凛の頬に手を添えるとにやりと悪戯な笑みを浮かべた。
「仕方ないな。泣き止まないならキスしちゃうよ?」
耳元で甘く囁かれ熱い吐息を感じる。
脳髄が痺れ、溶けてしまいそうな感覚が走た。
「けっ、けけけけ、結構です!」
はっと我に返ってアッシュを押しのけると、金の刺繍とレースが付いた服の袖でゴシゴシとあわてて涙を拭った。
「ぷはははっ! 冗談だよ、凛ちゃん。素直だなあ!」
真っ赤になって全力で拒否する凛をぽかんと見ていたアッシュは、瞬間盛大に噴き出した。
腹に手をあててこみ上げてくる笑いを堪えている。
「もう!からかったんですか!?酷い」
頬を膨らませて睨み付けてやるが、まったく動じた風もない。
「悪かったよ。つい、な。くくっ」
「笑わないでください!」
笑いながら言われても説得力がない。
なんだか恥ずかしいやら悔しいやらでわけがわからなくなってきた。
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