5-13

 ルジェがいなくなってしまうと、グレイズは軽くウェーブのかかった紫色の髪を掻き上げながら深いため息を零(こぼ)した。
 がっかりというよりは少し怒気を含んでいるように思える。

「ごめんなさい! あの、私酷いことを……」

「凛さん。突然この世界に来て女王になれだなんて、困惑するのはわかります。けれどこれだけは知っていてください。私達の女王は貴女しかいない。そしてルジェは私達ヴァンパイアを守ろうと一生懸命なだけなんです」

 いつも穏やかなはずのグレイズにしては声を荒げ、頬に朱が差す。

「は、はい」

「まあまあ、その辺にしとけば?」

 アッシュが二人の間に入ってくると、グレイズは再度深いため息を吐いた。

「そうですね。それでは私、少し調べたいことがありますので失礼します」

 グレイズは一見微笑しているように見えたが、その深い紫色の瞳には冷酷な光を宿して凛に向ける。
 それは怒りと、そして侮蔑を含んだ光。
 凛は、ルジェに続きグレイズまで怒らせてしまったことに、言葉がなにも出てこない。

 そんな凛には一目もくれずにグレイズは部屋を出て行った。
 枯れた木材の鈍い音と同時に扉がゆっくりと閉まる。

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