5-11
「嘘、でしょ?」
凛は、生唾を飲み込んで目を見開いた。
そんなことになったら、この世界すべてを巻き込んだ大戦争になる。
だからイェゼンが女王に逆らうなどということは大問題なのです、とグレイズは続けた。
「嘘など言うか馬鹿女。だからお前が早く女王にならなければいけないんだろう?お前が女王になって俺達ヴァンパイアを支配すればいいだけの話なんだ。それを城から逃げ出しやがって」
ルジェは苛立って眉間にしわを寄せ、凛に視線を向けると深いため息を吐く。
「無理だよ、女王になんてなれるわけないでしょ! 何の力もないし何も知らないんだもん。第一、私は元の世界に帰りたいの!」
女王だと皆から言われていることは認めるし、必要とされていることも理解している。
しかし、本当は日本に帰りたいというのが本心だった。
祖父母が待つあの家に帰って皆で談笑しながらテレビを見ることや、祖母の暖かい手料理を食べること。
柚衣や友達と他愛のないおしゃべりをして遊ぶこと。
この血生臭い世界に来て早半月、今や何もかもが懐かしかった。
目まぐるしく変化する日々の中で、ずっと奥に秘めていた思い。
辛ければ辛いほど、優しくされればされるほどに溢れてきた願い。
望みはただ一つ、日本へ帰ること。
ロコが気づかせてくれた、逃げないということ。
凛は今、日本へ帰ることを諦めないことが逃げないことなのだと信じていた。
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