5-7

「強いに決まっているだろ。まかりなりにもあいつはロゼリオンだ。半端な強さじゃなれない。それにあいつは十八年前にモントールの街に攻めてきた人狼(ワーウルフ)を、たった一人で殲滅したほどの奴だぞ!」

「なっ……」

 凛は驚きとは違う意味で声をあげた。
 殲滅というのは殺したということだろうか。
 心臓が鉛に変わったかのように呼吸が苦しくなる。
 わかっているつもりでいた。
 当たり前に人が死んでいくこの世界で、ヴァンパイア達も当たり前に誰かを殺す。
 それはこの世界において、生きるために仕方のないことで、そもそも日本とは違うのだと。
 けれど、彼らといると忘れてしまいそうになる。
 彼らは優しく笑い、怒る普通の人間のようだから。

「悔しいですが、ナイトは私達の中でも一番実力は上です」

 グレイズは苦笑した。

「そんな奴を倒せるヴァンパイアなんてそうそういるわけがない!」

 ルジェは今にも湯気が噴出しそうなほど顔を真っ赤にさせて怒鳴った。

「嘘、ナイトが?」

 そんなに強いヴァンパイアだったなんてとても信じられない。
 ならあの大男は何者なのだろう。

「でも本当なんだよ? 私見てたんだから」

「女、お前は頭が弱そうだから信用できないな」

 ルジェは見下すように目を細めて凛に視線をむけると、ふん、と鼻で笑った。

「いちいち何」

「けれど、凛ちゃんの言ってることが勘違いじゃないとなると……。大変なことだぞ。我等貴族(イェゼン)の誰かがアストレーヌ様を裏切っていることになる」

 凜の言葉を遮ったアッシュの言葉に、凛以外の全員は重い沈黙に包まれる。
 一様にして唇を噛み締め、眉根を寄せていた。
 凛もなぜだか言葉を紡ぐことができず、アストレーヌ元女王、もとい自分の母親らしき人物の名前が突然出たからであろうか、首を傾げるしかなかった。

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