5-3
「え? いえ結構です! 自分できますから」
ティティーの優しい声音が凛を現実に引き戻させた。
物思いになど耽ってはいられない。
これだけは断固拒否しなければならないのだ。
というのも、ティティーは『女王様は何もなさらなくて良いのです。お任せくださいませ』と、凜の脱衣から入浴から全てを手伝いたがるのだった。
はじめなどは、この世界に来て呆然としているのをいいことに、危うく全裸にされかけた。
慌てて断ると心底がっかりした表情で渋々部屋を出て行ったが、すぐに扉ごしに『お背中御流しします』などと声をかけられて気が気ではない。
最初は驚いたが彼女は特に下心があるわけでもなく、女王の世話することに使命感を持っているようだった。
いくら相手が同い年くらいの可愛らしい女の子でも、女友達とお風呂に入ることなど修学旅行くらいでしかない凜にとっては、恥ずかしすぎる拷問である。
「そうですか。それでは何かありましたらお呼びくださいね」
無理やり笑顔を作って微笑む彼女に心が痛んだが、できないものはできない。
「はい、ありがとうございます」
凜は出来る限りのお礼をこめて微笑んだ。
[ 121/179 ][*prev] [next#]
[表紙へ]
[しおりを挟む]