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「お前らか、じゃないだろ! 何やってんだよお前、女王勝手に連れ出して。何かあったらどうするんだ!」
アッシュは眉を吊り上げ声を荒げた。
いつもにっこりと微笑んでいるアッシュがここまで激昂するのははじめて見る。
ナイトはというとまったく動じた感もなく、
「悪い」
と一言呟いただけだった。
「ちょっとアッシュ。ロコ、えっと人間が」
「あ」
アッシュはしまった、と口に手を当て、一同の視線が傍らでずっと眠っていたロコに集まった。
ぴくりと少し肩が動いたようにも感じたが、起きないところを見るとどうやらまだ眠っているようで、女王という言葉は届かなかったようである。
凛がほっと息をつくが、即座に自分の情けなさに苛立ちを覚えた。
もう逃げないときめたのだ。
自分がヴァンパイア達の女王だということを、何故秘密にする必要があるのか。
ロコが目を覚ましたら真実を伝えよう、凛はそう心に誓った。
「ところでナイトレイ、何故裸なんですか?」
グレイズがその場の空気を意にも解さず不思議そうに首を傾げ、いつもと変わらぬ優しい笑顔を浮かべる。
「な、なな、ナイト! お前ら本当にナニやってたんだ?」
驚いたのはアッシュで、額に大量の汗を浮かべてナイトと凛を代わる代わる指差した。
「ち、違います! そんなんじゃありません!」
アッシュの言わんとすることを理解した凛は、顔を真っ赤にしながら精一杯全力で否定した。
その傍らナイトは軽く舌打ちをすると凛を眺めてから鼻で笑う。
「馬鹿言うな。こんな貧相な女に欲情などできん」
「あっそう!どうもすいませんね! あんたみたいに性格の悪い奴こっちだってお断りです!」
息を吸うのも忘れて一気にまくし立て、息も荒く言ってやったと胸を張ると、凛以外の全員がきょとんと目を見開いていた。
「あはははは! あのナイトレイにそんなこと言えるのは凛ちゃんくらいだよ。さすが女王だな」
アッシュは金色の瞳を細めて盛大に噴き出したのだった。
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