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「そうね。凛の良いところは短気で遅刻魔でおまけにドジなところかな?」
「ちょっと! 良いところを聞いてるんですけど。それに短気って何?」
たしかに遅刻はしょっちゅうだし、学校の階段から落ちたのは五回くらいあるのだけれど。
ジト目で睨みつけながら頬を膨らませて問うと、柚衣は真顔できっぱりと答えた。
「だって本当じゃない。この前だって更衣室覗いてた痴漢ボコボコにしてたし」
「しっ、してないってば! 投げ飛ばしただけでっ」
しどろもどろしながら大きく両手を振り否定する。
「でもそれからモテるようになったよね」
「だって私、悪い奴大っ嫌いなんだもん。そういうの黙って見過ごせないよ」
高校一年の夏、女子更衣室を覗いていた痴漢を見つけて、投げ飛ばして捕まえたことがあった。
その一件を見ていた運動部の女子から感謝され、熱い視線を送られるようになったのである。
顔はまあ並、スポーツは得意でサバサバした性格が女性徒にうけたらしかった。
もっともその理由のひとつには、凜の通う聖城(せいじょう)高校の8割が女生徒だということも含まれているかもしれない。
そのせか凛は男子とは付き合うどころか口を聞いたこともほとんどなかった。
男勝りな性格が災いしてか、女子にはモテるが男子には引かれるのかもしれないが。
「まあ、凜は昔っからそうだよね。いじめっ子やっつけたりさ。
しいていえばそれが凜のいいところだよね」
「しいていえばって何」
「あはは!」
横目でじっと睨みつけてやるが、一人で噴出し笑いをしていて効果はない。
柚衣とは長いつき合いで幼稚園の頃から一緒だが、不思議とほとんど喧嘩することもなく仲良しだ。
小学生の頃、母親のことで虐められていた時は柚衣が助けてくれたっけ。
凛が物思いに耽(ふけ)っていると、高校のある方角から登校完了五分前のチャイムが聞こえてきた。
「もうそんな時間なの?早く学校行かないと遅刻しちゃう」
柚衣は慌てた様子で走り始める。
「本当だ!やばっ」
凛も慌てて後を追いかけていく。
瞳と同じ、胸まであるウェーブの茶髪が風にふわりと靡(なび)く。
瞬間、わき目も振らず十字路を右に曲がった直後、凛の顔面に鈍い衝撃が走った。
「痛っ」
凛はその反動で尻餅をついて盛大に転んでしまった。
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