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 cross.1  薔薇達ノ覚醒     



「――おい。起きろ」

 ナイトレイ・ランスハルトはすやすやと夢心地で寝息をたてる、この部屋の主ことアッシュに怒気を含んだ低い声を投げつけた。
 アッシュは身じろぎ一つしない。

 次期女王をこの城に連れてきてから早二日が経ち、俺達薔薇の騎士(ロゼリオン)も女王に生活のリズムを合わせなければならなくなった。
 少々頭の具合が気になる凛という女は、異世界から来た特異な育ちだからかヴァンパイアでありながら昼行性(ちゅうこうせい)なのだ。
 ロゼリオンの役目は女王を守ることにあるため、日が昇った暫(しばら)く後に勉強を始める女王に合わせて、本来なら眠る時間であるはずの早朝に目覚めなければならないのである。

 地位の高いヴァンパイアは人間ほど多くの睡眠を必要としない。
 夜闇の下で力を増す我等種族は、人間で言う娯楽的意味合いを多く含んだ休息を昼間にとっていた。

 しかし一旦根付いてしまうと、ヴァンパイアといえどもその生活を変えるのはおっくうで、それはロゼリオン達も例外ではなかった。

 黒を基調とした、決して派手ではないが豪奢な家具の置いてある部屋だ。
 仄かに甘酸っぱい香りが部屋中に広がり、僅かな明り取りの窓から差し込んだ光が自らの存在を主張するかのように大きな灰色の寝具を照らしている。

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