[ 井戸端会議 ]


期末試験を終えた学園に束の間の平穏が訪れる。

「お、終わったぁ」
「アリス、お疲れ様」

久々に役員が勢揃いした生徒会室は恒例のティータイムに入っていた。いつもと違うのは、今日のお茶は乙木が淹れた煎茶であることだろうか。

「ありがとうございます、乙木先輩」
「リデルが淹れてくれる紅茶より味が落ちちゃうけど…」
「そんなことありませんよ」
「うん。すごい美味しい」

リデルとカーミラの誉め言葉に乙木が顔を綻ばせる。ほのぼのとした空気が漂う中、ガチャリと扉が開き、顧問のサマンサが顔を出した。

「先生!どうしたんですか?」
「いやフェニに用があってな〜ありゃ、いないの?」
「仮眠室で寝てるよ。起こしてきましょうか?」
「あーならいいや。急ぎの用じゃないし」

カーミラがパタパタと駆け寄り、サマンサを出迎える。サマンサも寄ってきたカーミラの頭を撫で、出入口で立ち話を始めた。
そんな二人を見つめながらアリスが弟にぼやく。

「ねえ。カーミラ先輩ってサマンサ先生にはなんか態度違くない?」
「あれ?アリス知らないの?2年まで付き合ってたよ。あの二人」
「えっ」
「嘘ぉ!」

傍にいた乙木まで一緒に驚きの声をあげる。そこへ会長も話に参戦する。

「サマンサが中等部にいたカーミラを口説いてな。生徒会も入ったのはサマンサに誘われて、だ」
「うーわーそうだったんですか?全然知らなかった」
「僕も中等部からのお付き合いとは初耳です」
「あ、でも今は…?さっき2年までは、って言ってたよね」

カーミラとサマンサの恋愛事情についてのお喋りに火が点く。四人で頭を付き合わせ、ヒソヒソと情報交換をしていく。

「3年になると卒業もかかってくる。進路に響いてはカーミラの親御さんにも申し訳が立たんからな」
「で、会長が別れさせたんですか?」
「人聞きの悪いことを言うな。それとなくサマンサを諭しただけだ」
「へえ…じゃあまだ好きなのかなあ。お互い」

チラリと二人の姿を横目で見やるが、仲睦まじい空気が漂っている。なんとなく仲に割って入れないようなフワフワした空気だ。

「カーミラの卒業試験は終わったし、また付き合わないのかな?」
「先生の方はともかく、カーミラ先輩はどうでしょうかね」

リデルの言葉に乙木以外の二人がうんうんと頷く。

「今年から外界交流始めて色んなコミュの人に会って…カーミラ先輩の気持ちも変わってるんじゃない?」
「うむ。特別な存在であることは違いないだろうが…」
「んー1年も経ったら前と同じじゃなくなっちゃうかぁ」
「当たり前だ。しかも3年も付き合って一回も手を出さなかった奴だぞ。不甲斐ない男だ」
「うわっフェニ!いつの間に…」

乙木の後ろからひょいと顔を出したのはフェニだった。寝起きでいつもより目付きが悪く、向かいに座っていたアリスとリデルがやや怯えている。

「詳しいな、フェニ」
「長い付き合いですから。付き合ってる間は自分には魅力がないのかと不安がっててな…」
「いやまあ高校生なんだし…」

遊び人のフェニの基準で言うのは酷だと乙木は諌めるが、リデルがこそっと耳打ちする。

「乙木先輩…此処では高等部になっても処女童貞なんて超レアですよ」
「えっ!?」
「お伽噺ってエグかったり生々しかったりしますから…」
「まあ、そうだけど…そうなんだ…」

普通の世界と違うとは分かっているが、やはりこう言うギャップを目の前にするのは慣れない。
ショックを受ける乙木を余所にアリスがキョトンとして皆に尋ねる。

「あれ?でもさ、カーミラ先輩って慣れてはないけど童貞でも処女でもないよね…?」

サマンサ以外に彼氏がいたということもなく、行きずりの可能性も低い。一体誰なんだと五人の中に疑問が浮かんだ時だった。

「お前ら、なんつー話で盛り上がってんだ!」
「もう…勝手に人の恋愛事情をネタにしないでよ…!」

呆れ顔のサマンサと頬を赤く染めたカーミラに見つかってしまった。しかし、双子は嬉々として当事者たちを問い質す。

「いいじゃないですか〜…で、カーミラ先輩の初めての人って?」
「サマンサ先生、誰か知ってるの?」
「んーまあ…知ってるけども…」
「誰なんだ?」

サマンサがチラッと隣のカーミラを見ると、諦めの溜め息を吐いてカーミラがぽつりと、

「………パパ」

そう呟いた。

「えええ!!うっそぉ!!」
「あの親バカ…」
「これを聞いたらな…ちょっと軽い気持ちでは寝れないだろ…」
「せ、先生…俺と軽い気持ちで付き合ってたの…?」
「ちっ違うよ!」
「地雷踏みおって戯けが…」

カーミラの爆弾発言で生徒会室は騒然となる。そんな中、乙木は一人呆然としていた。

「ああ…俺もう分からない…」

(2011.2.23)

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