[ チョコレート ]


慰安旅行の最中、会長の携帯に緊急連絡が入った。

『旅行中に申し訳ございません。御崎です』
「おぉ、風紀委員長。どうした?」
『実は…』

連絡は学園内で謎の植物が発見されたので生徒会で処理して欲しい、という内容だった。こうして役員たちは急遽学園に戻ることになった。

敷地の一角――

「皆様、ご足労頂き感謝致します。では私御崎が件の場所までご案内致します」

会長に電話をした風紀委員長である白狐の御崎が鬱蒼とした森の入口で役員を待っていた。御崎の案内に役員たちはついていく。

「うわあ…なんか出てきそうだね」
「出ますよ?」
「えっ!?」

アリスの言葉に乙木が目を見開く。そんなことも知らないのかと呆れ顔でアリスは乙木に解説する。

「学園では妖精や幻獣の飼育もしています。飼育委員がいるでしょう?あの人たちがお世話してるんです」

乙木の脳裏に陰鬱で怪しげな雰囲気を醸し出す飼育委員長の姿が浮かぶ。常々疑問だった彼らの仕事が乙木の中でやっとハッキリした。

「そうなんだ…でもそしたら連絡くれるのは飼育委員長さんじゃ…」
「乙木副会長のご指摘通り、本来は飼育委員長の役目です。ですが現在、行方不明なのです」

はあ、と御崎が溜め息を吐く。目的地に着くまでに御崎は今回の事件を役員たちに説明した。

「数日前、八郎飼育委員長がこの森に行くと言って消息を絶ちました。飼育委員会ですぐに捜索しましたが見つからず…ただ代わりに新種の植物を発見。その実をサンプルとして持ち帰りました。しかし新種の調査をした委員が奇怪な行動を取るようになったのです」

奇怪な行動、という言葉に全員が首を捻る。言い淀む御崎だが一つ咳払いをして口を開いた。

「夜な夜な部屋を抜け出しては新種の根元で…その…性交をする、と」
「せいこうって…はあ?!」
「最初は夜だけでしたが、今ではあのように…」

御崎が足を止め、先の方を指差す。道が開け、小さな広場のようなそこでは、獣と人が入り交じって乱交に耽っていた。乙木の顔が青ざめる。

「こ、これは…」
「その新種とやらに理性を麻痺させられているんだろう」
「本体を処理すれば目を覚ますかと思いますが…会長」
「焼却処分だ。焼き払え」

会長の言葉を合図にリデルとアリスが樹木本体を囲う結界を張り、カーミラがその前に立った。小さく口を動かし何事か呟くと、樹木の根からチリチリと炎が上がり、あっと言う間に全体を飲み込んだ。

「うわっすごい…!」
「相変わらず炎系魔術は得意なんだな」
「流石カーミラ書記です」

樹木が燃え尽きて間もなく、広場にいた人と獣の動きがピタリと止まった。そしてパタパタと倒れていく、一体のタヌキを除いて。

「リデル、アリス!そのタヌキを捕獲しろ」
「はいっ」

タヌキは二人の手で簡単に捕まった。四人の前に連れて来られるとタヌキは小さい体を更に小さくして怯えていた。

「ただの化け狸じゃないですか、会長」
「しかし、あの中で一匹だけ倒れないなんて不思議だろう。三人と御崎は倒れてる奴等の様子を見てこい。フェニはこのタヌキに事情を吐かせろ」
「了解した」

フェニの気迫に圧され、タヌキはすぐにペラペラと話し出した。

「申し訳ねえだあ!見ての通り、おいらはしがねえ化け狸だず。なかなか嫁が探せねえで跡取りも作れんかったんじゃあ…でンもある日、おいらの話さ聞いてくだすった八郎様が、あの木ンとこにおいらの嫁候補さいっぱい連れてきてくれてえ…」

乙木とフェニはタヌキの話に驚いた。生徒会の管轄下で学園に奉仕する委員会の長が今回の事件の黒幕なのだから当然だ。しかし会長だけは冷静に背後の木立に向かって問い掛けた。

「おい、飼育委員長。タヌキがゲロったぞ。お前もさっさと出てこい」

暗い森の奥から一つ影が現れる。行方不明と言われていた飼育委員長の八郎である。

「八郎!タヌキが言ったことは本当なのか?」
「ああ、本当だよ狼さん。流石会長、あっと言う間に解決してしまったなぁ」
「な…なんでこんなことしたんだ!」

悪びれた様子のない八郎に乙木が吼える。いつも大人しい乙木の怒鳴りにフェニは勿論、会長も少し驚く。

「いろんな人を巻き込んで…君は委員長だろ!何やってるんだよ!」
「……私は飼育委員だよ。ここの生き物たちの為に働く。生徒たちの為ではないよ」
「それでも…ちょっと考えれば、もっと違うやり方があったはずだ。このタヌキも他の獣も、心があるんだろ?こんなやり方で跡継ぎが生まれて喜ぶのか?」
「うむ…」

乙木の言葉に八郎が押し黙る。カカカと会長が笑った。

「言うじゃないか、乙木!確かに今回の件は些か遣り過ぎだ。八郎は暫く謹慎。飼育委員長の肩書は剥奪する。タヌキも飼育小屋で反省しろ」
「はい…」

こうして事件は幕を閉じた。八郎とタヌキは風紀委員が連れてゆき、被害を受けた生徒と獣たちも応援に駆け付けた保健委員が介抱している。

「一件落着って奴ですね」
「…ったく、八郎の奴、面倒なことをして。あとで灸を据えてやる」
「あ、フェニ先輩、旅行が頓挫したの根に持ってるんですか?」
「当たり前だ。たっぷり礼をしてやる…」
「凶悪な顔になってますよ……あれ?カーミラ先輩は?」
「そう言えばいないね」

リデルの言葉に役員がキョロキョロとカーミラの姿を探す。カーミラは樹木の焼け跡でしゃがみこんでいた。

「カーミラ、何してるの?」
「これが落ちてた…あの樹の実かな?種かな?」

焦げた地面にコロコロと赤い粒が転がっている。その一つを手に取り、カーミラは躊躇なくパクリと食べた。

「ええっ!ちょっ…大丈夫?!体何ともない?」
「平気だよ。すごい甘くて美味しい。乙木も食べる?」
「う、うん…」

口元に差し出され、恐る恐る食べる。舐めると少しほろ苦いが甘く食べなれた味が口の中に広がった。

「これ…チョコレート?」

その後、樹木の実は危険物と称して生徒会が全てかき集めた。バレンタインを前に生徒会が売り出した「絶品チョコレート」と関係があるか否かは役員たちしか知らない。

(2011.1.29)

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