遭遇

「あれ、アシタバじゃん」


背後から聞こえた声に全身から血の気が引いてく。
その瞬間、振り返らないで、全力で逃げてしまえば良かったかもしれない。
でも僕の足は其処に縫い付けられたように全く動かなかった。


「明日葉、知り合いなのか?」
「う、うん…佐谷くんっていう、クラスメイト」
「ども。君は制服違うけどもしかしてアシタバと同中?」
「あ? ああ、そうだけど…」


傍目から見たら爽やかそうな笑顔で佐谷くんは僕らの傍に駆け寄ってくる。
藤くんは怪訝そうな顔をしたけど、彼は気にしないで喋り出した。


「ふぅん、じゃあ今のアシタバのことは知らないんだ」


何を、話すつもりなんだろう。
恐る恐るその顔を見上げると、佐谷くんはニヤリと笑った。
彼の後ろに控える取り巻きたちも同じように顔をにやつかせてる。
それを見て、彼らが何を企んでいるのか分かってしまう。
高校でのこと、藤くんにバラすつもりなんだ…!


「はあ? なんのことだよ」
「高校デビューって奴? アシタバと一緒に遊びたいって奴が今凄く多いんだ」


でも、そんなこと藤くんに知られたら…


「君には悪いけど…ちょっとの間アシタバ借りれないかな」
「意味わかんねえ。明日葉と先約してたのは俺だし、大体誰と一緒にいるか何て本人が決めることじゃねえの?」
「そうだよ、アシタバが一番一緒にいたいのは俺たち。あ、それとも君も一緒に…」
「だっ駄目だよ!」


藤くんに知られるのは絶対に嫌だ…っ!


「ご、ごめんね、藤くん…でもこの後は佐谷くんたちといる、から」


驚いて目を見開いた後、藤くんはすぐに怒った。


「何でこいつらの言いなりになってんだよ。それお前の本心じゃねぇだろ」
「嫌だなぁ、そんな言い掛かりはよせよ」


佐谷くんに肩を掴まれ引き寄せられる。
体が密着するだけで全身に悪寒が走った。
離して、と叫びだしたい気持ちを目を瞑って堪える。


「お前ら…明日葉に何した…?」
「なーんにも、とは言えないねぇ。アシタバと俺たちはとっても深い仲だからさぁ。なんたって…」
「やっ止めてよ…! 何も言わな…っ!」


いやらしく腰を撫でる手を払い、佐谷くんの言葉を遮る。
けれど、すぐに取り巻きの連中に押さえられてしまった。


「アシタバは君に知られたくないみたいだけど、君は気になってしょうがない、て顔だ。この後俺たちと一緒に来るなら…教えてやってもいいよ」


僕からは佐谷くんの背中しか見えない。
でもきっと、いつものように意地が悪い笑顔を浮かべてるのが予想できた。
そして何を言おうとしているかも。


「嫌だ、言わないで…っ! んぐう…っ」
「うるせぇぞ」
「そんな焦んなくてもいつも通り楽しませてや……っ?!」


一瞬、その場にいた全員の動きが止まった。
突然佐谷くんが仰向けに倒れたからだ。
向かい合う藤くんの掌はきつく握り締められていて、周りはようやく佐谷くんが殴られて倒れたのだと理解する。


「てめぇ!」
「この人数で喧嘩売ろうってんのか?!」


リーダーが攻撃されて怒りに沸騰する集団を前に藤くんは静かに――怒っていた。


「人数とか関係ねえよ。わかってんだろうな…」


聞いたことのない低い、低い声で呟く。


「お前ら…ぜってぇ許さねえぞ」


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