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「白哉さま、ご心配いりませんよ。名前は至って元気ですから」

朝、隊舎に向かう白哉に、そう言いながら、名前は微笑んだ。




嗚呼、なにか不安だ。

朝、白い顔がやけに青白く見えたのは気のせいか。

白哉は、この季節は、緋真を亡くした季節であった所為か、いつも不安に苛まれる。
昔は緋真を偲んで、悲しみにくれていたが、今は名前も緋真と同じように逝ってしまうのでは、と思うと悲しみより、不安が襲う。

何度となく名前とこの季節を共にしたのにも関わらず、今だに不安だった。

冬将軍が連れ去る如くに、緋真は春を待たずに逝った。
名前もまた、連れ去られるのではないか。

そして今日はその不安が強く。
名前の顔を見ないと安心せず、仕事がままならない。早々に、切り上げ、帰ってきてしまった。

恋次が何か言っていたが、そんなこと気にしてはいられない。


「名前は?」

出迎えに来ない名前に一層、不安が募る。

何かあったのでは、もしや……

「奥方様は、お部屋で」

家令は少し言葉を濁す。
その態度に、白哉の不安は最高潮に達する。

ああ、名前。





妻の部屋に行けば、名前は、横になり眠っていた。

『白哉様、緋真は……』

その姿に、遥か彼方の記憶と重なる。



「名前!!」


その狼狽した声に、名前はゆっくりと目を開ける。

「白哉さま?」

寝起きの掠れた声で、夫の名を言い、ゆっくりと起き上がる。

「無理しなくていい」

起き上がる名前にそっと腕を回す。

「お帰りなさいませ。こんな姿を見られては白哉さまが心配すると思い帰る頃には起こすようにと言ったのに、どうやら、起こしてはくれなかったようですね。」

名前は申し訳なそうに、微笑む。

「名前、どこか具合でも、悪いのか。」

「少し、風邪みたいでしたが、先ほど薬を飲み、寝ていたのでもう平気ですよ」

そうは言うもまだ、名前の中にけだるさが残っていた。

「そうか、大事に至らないならよい。すまない、取り乱しすなどして」

「白哉さまが、この時期は不安なことは解っています。だから健康管理には、気を使っていたのですが、白哉様に贈りたいものがあって、作っていたのです。」

「私にか?」

「ええ、良い正絹が手に入ったので、バレンタインに贈ろうと思って小袖を。今日は、現世で言うバレンタインデーなのですよ」

「ああ、そうか。私もなにか贈ろうと思っていたのだがすっかり失念していた。」

「ねえ白哉さま。白哉さまにとってこの時期は辛い時期です。それは重々承知していいます。もしかしたら、この時期に楽しいことをするのは、緋真さんに悪いのかもしれない。でも、白哉さまのお辛い気持ちを和らげたいから今日は、冬の厳しさの中の楽しみとして、毎年、楽しみませんか?」

白哉は妻の気遣いに、ただ感謝するしかなかった。
いつも、自分を気遣い、自分の緋真への思いを尊重してくれる。そしてどうにか、一緒にその辛さを乗り越えようとする献身的で、聖母のように慈悲深い愛情。

妻への裏切りにもにた、緋真への思いも赦してくれる。

「私は、最高の伴侶を持ったようだ」

名前を見て愛おしいそうに目を細めるのだった。





その後、朽木家の夕餉に、名前とルキアが作ったガトーショコラが出され、家族揃って、冬の空と厳しさと対称的に温かく、沢山の愛情に満ちた食卓を囲んだようだった。

ご当主は妻が作った、春らしい小袖を羽織り、横には花のような笑顔を湛えた奥方の姿があったそうで。


<終>

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mokuji



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