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「いつもそこで泣いているな」


減点を告げるわけではなく、ただそう言った。

見られていた。
泣くところを、誰にも気取られたくなくこんなところで泣いていたに、私の努力はどうやら無駄で、ずっと見られていた。

その事実に泣きたくなった。
厭味の一つや二つ言ってやりたかったが、なんにも思いつかなかった。

「私は一人で寂しく泣くことも許されないんですかね」

ぽつりとそう零すことしかできなかった。
一人でいたいのに。


「何故、泣く」


「解らない。何がなんだか解らない。監督生としていつも模範にならなくっちゃとか、下級生の面倒を見たり、遊びたいけれど、成績を下げることなんて許されないからいつも勉強していることも。ここに何年もいるけど、日本と勝手も違うし、友達関係も今だぎこちない。色々頑張ってるけれど、もう、頑張ることに疲れました」

泣きながらぶちまける。
もう嫌。早くあっちへ行って。
あんなに泣いたのに、どこからともなく涙は溢れてくる

そんな私の思いも知ってか知らずか、先生は私のもとへ一歩、また一歩、近づく。


「そんなところで泣くな」

私の前まで来ると、へたり込む私の腕を持ち上げ、立たせる。


「先生?」

ぐちゃぐちゃで醜い顔を先生に向けると感情の読めない先生の顔が見える。

先生は掴んだ腕を離す気配はなく、掴んだまま歩き始めた。

「先生、ちょっと」


先生は無言である。

捕まれた腕から徐々に先生の温もりが染みてきた。





学校の一番高いところから、引きづられるかのように、どんどん下に下りていく。

「こんなに冷たくなるまで、外にいる馬鹿がどこにいる」

途中でそんなことをぽつりとこぼす。

「すみません」

「まったくだ」




いつの間にか、地下牢の先生の私室前で、部屋に通される。

「そこに座っていろ」

顎で示されたのは、黒い皮張りのソファーで、言われた通りそこに腰掛けた。
先生は室の奥へと消えていった。



先生は、私に温かい紅茶を出し、私の話しを聞いてくださった。
優しく諭し、いつもの陰険で根暗で、いじわるな先生ではなかった。
「辛いことがあったここに来るといい」
先生は最後に、そう言ってくださった。



それからだった。
私は、夜の星空の下で泣くことはなくなかったし、あまり泣くこともなくなった。
なにか困ったことが辛いことがあれば、先生のところに行いった。
愚痴を言ったり、勉強を教えてもらったり、相談事をしたり。

いつの間にか先生は私のよりどころになっていった。

そして、授業と違う紳士的で優しい先生に、徐々に惹かれていった。



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mokuji



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