24Q 6
「なぁ、真ちゃん」

 リアカーを繋いだ自転車を漕ぎながら、高尾が後ろに向かって呼びかける。

「なんだ」

「なぁ、橙野って、アイツ、――大丈夫なワケ?」

――精神的な意味で。

 高尾は尋ねた。

「あの性格をまともだと思うのか」

「いやそうじゃなくってさぁ」

「まさか、……心配にでもなったのか?」

 呆れたように緑間が言う。あれだけのことをやられておいて、という意味を言葉の裏に感じ取って、高尾は黙り込んだ。
 頭には、今日目にしたばかりの白髪の男の、色々な姿が往来した。
 
「……あいつが何抱えてんのかしんねーけど、なんか、今にもバラバラになっちまいそうな感じがしてさぁ」

 独り言ちるように漏らせば、背後から鼻で嗤われる。

「なんで笑ってんだよ」

「……俺は奴が気に喰わん――昔も今も変わらない。人事を尽くさないあの男がどうなろうと、俺の知ったことではないのだよ。だが、今日確信したことがある。アレは確かに、少なくとも一度、既に壊れてバラバラになっていたのだと」

「……、つまり、とっくの昔にぶっ壊れてるから気にすんな、ってこと?」

「……好きに解釈しろ」

「じゃあさ、もし橙野が『人事を尽くさない』んじゃなくて『人事を尽くせない』んだとしたら、どう思う?」

 高尾は背後で緑間が眉間を寄せたのがわかった。

「何故『尽くせない』のかは知らんが、どちらにせよ、強者の前では通用しない。所詮はそこまでの男だということだ。……奴も同情は望まないだろう。俺の知ったことではないのだよ」

 緑間は橙野に対して知らぬ存ぜぬの姿勢を貫くつもりらしい。高尾は笑みを零した。

「それ、さっきも聞いたぞー。ったく。ま、今度こそはマジなあいつにも勝ちてえな」

 緑間は答えない。けれど高尾にはその胸の内を想像することができた。

(今度こそ勝つ。その為にも、頼むぜ……)

 高尾はペダルを踏む足にぐっと力を籠めた。

(Contrary to these words,)

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