20Q 5
「日向先輩、後ろ!!」
ベンチの降旗が叫ぶ。
ドリブルをしていた日向はハッとして振り返るが、時すでに遅し、高尾にボールを奪われた。
開始された第3Q、誠凛の面々はなんとか精神を繋いで秀徳に当たっていたが、事実、コート上では何の策も展開されていない。
秀徳に当然、押され気味になる。
日向から早々にボールを奪った高尾は、すぐさま緑間にパスを出した。
緑間は流れる様なフォームで早速ボールを構えてジャンプすると、3Pを放ちにかかる。
「っつ!」
対する火神は、高くジャンプすることで緑間を止めにかかった。
空中を上昇しながら、緑間は思わず目を見開く。
(コイツ――いつの間に!? いや、それより――!)
火神の手が、触れないギリギリの高さで、緑間はボールを放った。
高いループを描いて、何時もの如く、ボールは綺麗にリングをくぐる。
火神に気を取られながらも、確実にシュートを決めた。
流石緑間といったところか。
だが、その緑間から、今、確かに火神は余裕を削いだ。
27-48で秀徳のリード、誠凛が立つのは風下だ。
だが、緑間が若干戸惑いながら振り向く先にあった広い背中の主は、勝利への並々ならぬ思いに燃えていた。
(負けるか、絶対! もっと、もっとだ――!)
無論、伊月や他の面々も、勝ちたいという思いは火神に負けていない。
高尾が鷹の目なら、伊月は鷲の目。
意表をついたノールックパスで小金井にパスを送り、小金井もシュートを決める。
(大坪さんもいいけれど、緑間のマークが甘めえよ、火神くん!)
程無くしてまた、高尾がパスを緑間に繰り出し、緑間が火神の目の前でシュートフォームに入った。
止めなければ、俺が、止めなければと火神は地面を強く蹴る。
――『勝ちたいとは考えます。けど、勝てるかどうかとは考えたことないです』。
火神の耳に、今はベンチで自分たちを見守っている黒子の声がこだまする。
(お前は最後まで決して諦めない。けど、全力を尽くしてそれでも駄目なら、その負けを受け止めるってことだろ? 勝ち目のないような強敵とやるのは、ワクワクする。それでも、最後は――)
――「勝たなきゃ、何の意味もねえんだよっ!!」
再び跳躍した火神の、その高さは、先程のジャンプよりも明らかに増していた。
「っ!?」
その高さを恐れた緑間は、彼の手から逃れるように、素早く手からボールを押し出した。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
けれど、緑間がボールを放った後もなお火神は上昇し続けた。
――伸ばされた指の端が、ボールの表面に触れた。
緑間は、信じがたい火神の成長に目を見張る。
(バカな! コイツ、有り得るのか? 試合中にどんどん高くなっている!)
そして高いループを描いて放たれたボールは、ドゴオと大きな音を立ててリングに激突した。
「あっ!」
今まで1度たりとも、緑間がシュートをリングに引っ掛けたことはなかった。
秀徳の選手も、誠凛の選手も、客席の黄瀬も、あんぐりと口を開けて、ボールがガランガランと大きな音を立ててリングにそって回る姿を見つめる。
リングを何周かしたところで、漸く勢いを失ったボールは、それでも静かにネットを揺らした。
「あっぶね!!」
「てか、緑間のあんな入り方、初めてだぞ!」
高尾や木村も、驚いてリングを凝視する。
対し誠凛のリコは、この時驚きの中にも強い希望の光を見出していた。
(本当に成長してる――!? あった! 突破口!!)
白美が、言った通りの展開になった。
これならば、行ける。リコは拳を握りしめて、コートの真ん中で緑間の側に立つ火神を祈るような眼で見る。
それはそれとして、緑間の火神への評価は、この試合を経て確実に変わっていた。
1人アリウープに始まり、どんどん高くなっていくジャンプ。
そして何より、今までこんな風に己のシュートを止めた者がいただろうか、と。
だからこそ、火神に尋ねる。
「おい」
「……?」
「お前、星座は?」
「獅子座だよ」
それが何だと、火神は答えた。
対し緑間は、「道理で」と内心溜息をつく。
――「狸の信楽焼きを持てば向かうところ敵なし! ただし、獅子座の方とだけは相性最悪! 出会ったら要注意!」
「……、全く、本当によく当たる占いなのだよ」
なるほど、やはり一寸の油断も命とりになるというわけか、と緑間は改めてハッキリと火神を警戒した。
(We don't have a good chemistry)
*前 次#
back:bookmark
113/136