ある日の出来事

私は本と言う物が苦手だ。

嫌いでは無いが、文字の羅列を見つめる旅に眠くなり次第に読むのが億劫になってくる。
そのせいで何冊の書物を本棚の肥やしにしたやら

それが異国の書物なら尚更に眠くなるのはごく自然な成り行きで・・・・


「でっ!!?」

不意に頭頂部に痛みが走った。まどろんでいた意識が瞬時に甦る。
強制的な覚醒後、最初に目に入ったのは分厚い本片手に目くじらを立てる薄紫の毛並みの持ち主・・・ダァトだ。

「大先生を目の前に居眠りたぁ真面目な至極姿勢だな?」

「・・・ごめん。」


何回目だろうか。
良い大人が情けないとくさるダァトをチラリと見やる。
私は言葉を話せない。と言うと何らかの障害を持ってそうにだが、単にこの世界の言葉が分からないだけ。この国のペン先から生み出される情報全てが私にとって知らないものだらけなのだ。
解決策は単純明快。マジメに勉強すれば良いだけの話。

「・・・だけ、なんだけどね。」

先生役を尻目にボソリと呟く
子供向けの本とは言え、ダァトの助けが無ければ訳すことすら儘ならない。

そんな書物での勉強など私にとっては苦痛以外何者でも無い。
そう言えば英語も苦手だったな、私

それでも簡単なやり取りは可能になったのだから、ここは今後の集中力向上の為にも誉めてほしい所なんだけど・・・

「ほらぁ、ボケッとしないで今度は綴り!!」

生憎まだまだの様ですな。

まぁ、ものぐさの独学でやるよりはマシかと今度は黙々とノートに同じ文字を綴っていく。えっと?この単語の意味は・・・

「―――――」

えっ?

ダァトを見る。

一瞬ダァトの発音とたった今綴った羅列がシンクロした様な気がした。

「贈り物って意味だ。」
「なるほど。」

どうやら成果が出始めたみたいだ
それじゃあ、とおもむろに本を手に取りパラパラとページを捲る。少し前に勉強した所の文字を指でなぞりながらダァトに向けて言う

「誕生日プレゼント」
「おっ、正解。ならこれは?」

ダァトの口角が片方上がった
一瞬嫌な予感が頭を過ったが
「読めたら好きな物奢ってやるよ」
の一言にそれはいとも簡単に忘れ去られた

三本しかない指で器用にペンを持ち、二行程の文章を書いた紙を私に突き付ける。

「・・・彼女は・・・今年・・靴下を〜くれ・・た?」

ニタリと笑うダァト
不正解か

「いいか〜これはな・・・・」

何か嫌な予感が・・・

「"今年の誕生日プレゼントよ"と、彼女は小さな靴下を・・・・もががっ!」

瞬時にダァトの口を塞ぐ
「予感的中・・・てゆうかマトモな文章にしてよ。」
「お〜?お前さんの予感が当たるなんて明日浮島が降ってきやしねぇか心配だぜ」

よ け い な お せ わ
今に始まった事じゃ無いけど・・・・このエロ獣、どうしてくれよう


「お前ェら、ひとン家で騒ぐたァ良い度胸だな。」

いつの間にか背後にベルセルクが立っていた。

つり上がり気味の短い眉を更に吊り上げ、いつにも増して不機嫌そうな顔をしている。

「あ・・・お帰りなさい。」
「おっ帰りぃ〜。」
「おかえりじゃねェ!テメェら人ン家で何してやがる!!」

勉強を少しょ・・・・いえ、ごもっともです・・・・

鼻息の荒いベルの背中を見遣っていると不意にダァトが服を引っ張って来た
「なに?」
「取って置きの言葉教えてやるよ・・・・お前さんの方がアイツには効果的だ」
「どんなの」
「意味としてはありがとうとごめんなさいの両方の効果を持つ!」

言葉の意味は解らなかったけど俗語・・・かな?
只でさえ短気な彼とは良好な関係を育んでおいた方が良いだろう・・・・この後のご飯の為にも

「あの〜・・・・」

私は教わった言葉をそっくりそのまま炊事を始めていたベルセルクに言った。

ドサッと鈍い音が響く

その「言葉」を聞いたベルセルクが持っていたジャガイモを落とした音だ。
顔を真っ赤にしてどこか憐れんだ表情をしている

これは・・・・

振り返った先には腹の立つ程に腹を抱えて笑いこけるダァト

「・・・・よくもやってくれたね。」
「ウ〜ソは言って無いよ〜ん。」

私は本が苦手だ。
活字を追うのがめんどいし追ってる内に眠たくなる。

しかしこやつの下ネタの応酬よりはマシかもしれない。

「過激な表現にしといて正解だったぜ」

まだ言うか


ユキナが言葉の意味を知るのはもうちょっと先の話

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