「ゼッ、ゼェッ・・ゼェ、ゼェ」


押し殺した低く荒い呼吸が空気の澱んだスラム街に鈍く響いている。
一角の壁だけに成り果てた廃虚の影に、隠れる様に座り込む少年が1人

乱れた銀髪と同色の尻尾は地面と平行線を描き、時折靡く風に体毛が僅かに踊る。この地域では珍しい褐色の肌色をした身体には大小様々な傷が無数に見られ、死人のそれの如くぐったりと壁に体重を預けていた。

だが緋の瞳は右に左に、前に後ろに、辺りをくまなく見回している

「い・・・っ!!」

不意に鳴った物音に銀髪少年の切り裂くような視線が一気に降り注ぐ。
それを全身に浴びた物音の主である少年の肩がビクッと跳ね上がる。人間だ。

みすぼらしいが、何処と無く品のある佇まいは、金色の髪と相まって凡そスラムには似合わない雰囲気を纏っている。

だが、そんな事はどうでもいい
銀髪にとっての問題は彼がいつ危害を加えてくるか、だ。

「だっ・・・・大丈、夫、?」

ようやく口を開けた金髪の少年の言葉は、銀髪の容態を気遣う物。
やっぱりスラムの奴じゃねえな

チッ、と舌打ち1つ鳴らした銀髪少年はよろよろと立ち上がり、片足を僅かに引き摺りながら歩き出した。

「待って!手当てを・・・」「触んじゃねえ、殺すぞ」

駆け寄ってきた少年を言葉と共にピシャリとはね除け、銀髪は振り返る事無くその場を去った。

呆気に取られる金髪少年
その場に取り残された彼は少し考えた後、銀髪の後を追いかける。



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