灰色の空からぽつぽつと雨が降り始た。
・・・・・・・・あの火炎瓶が生んだ炎は思ったよりも燃え広がっていた様だ。幸い死人は居なかったが、スラムも含め2ブロック先の住民にまで被害が出たらしい。
後ろをまだ何人もの役人があちこちの消化作業に追われ慌ただしく通り過ぎていく。


だから何だって言うんだ・・・・!
包帯の巻かれた両の手を見ながらカレルは憤った。


――――――――


「お願いベルを・・・・友達を助けて!!」

カレルの必死の懇願によりならず者の捕縛より消火作業が優先された。
人が居ると言ったにも関わらず、スラムの住民と判断されたのか水に加えて大量の砂の元に乱暴に火は消された。

大人達数人がかりで鉄骨は除けられ、漸くベルは重さと暑さの地獄から解放された。髪や尻尾が焦げて沢山火傷もあるけど、良かった、息してる・・・・!
死んでいなかった事に1つ胸を撫で下ろすが、安心はできない。一刻も早く医者に見せないと・・・・しかしカレルの次の懇願は聞き入れられなかった。

近づいて来た役人――大柄で団子っ鼻の男だ――の一人が、ベルを見るなりに眉を潜めた、それはさっきも見た蔑む時の顔。
彼は虫の息のベルをいきなり掴み上げると遠くの役人――茶髪で色白な優男だ――に怒鳴る様に言った。

「S‐5736、死んだのは半端者が一匹!!!」

そんな!ロクに診もしないで・・・・!
死んでない、と必死に掴み掛かったが、役人のもう片方の腕で払い飛ばされてしまった。

怯まず立ち向かおうとした矢先、別の役人に制止されてしまい「早く治療を」と早々と大通りに設けられた救護所まで強制的に引っ張られていく。

何なんだ!この扱いの差は。半端者ってだけでこんな事していいと思っているのか!治療が必要なのはベルの方だ!まだ生きてるんだ!死んでないんだ!!――――

何を叫んでも最速無意味に終わった。
ベルとの距離が離れていく。ペンダントを見付けてくれたお礼、まだしてないのに、折角友達になれたのに・・・・!

彼の目に焼き付いたのは、瓦礫の山に投げ棄てられたベルの姿だった。その行為を咎めた、ましてや気に掛けた者は誰一人いない。



最低限の治療を終えて逃げ出して来たカレルは、さっきまで瓦礫の山があった場所に立ち尽くしていた。今あるのは、細かな石榑ばかり

救護所内の役人は皆優しかったが、しかし歴然とした半端者と人間・獣人との扱いの差に、改めて差別と言う物を思い知った。酷い扱いを受けたのはベルだけでは無い。

煤で黒くなった地面に佇む少年の心に沸き上がっていたのは不条理に対する怒りと友人を助けられなかった後悔。

「ごめん、ベル。」

この気持ちは忘れないでおこう。そう胸に決めたカレルは役人から逃げる様に姿を消した。
幸か不幸か役人は少年をスラムの住人と思い込んでいたので、捜索はされなかった。

逃亡を手助けするかの様に雨は強くなっていく。



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